第11話:クリスタル・コフィン
正体不明の巨大魔物がいる草原へと向かう途中。
私はふと思い出したかのように、アイビスへとある物を渡した。
「アイビス。これ、返すよ」
「あ⋯。ありがとうございます!⋯⋯わぉ、キレイになってるー♪」
昨日頼まれた、十本の短剣の修理はなんとか終わった。本職には敵わないまでも、まぁ問題無い程度には修理出来る。たとえ下手でも、数年続ければそれなりの腕にはなるのだ。
「〜♪〜〜♪」
楽しそうに口笛を吹きながら短剣を一本づつ『装備』していく。アイビスは身体中に短剣用ホルダーを付けている。マントに、腰に、脚に⋯⋯、それぞれ剣を納めて、満足そうに笑顔を浮かべた。
それからしばらくして。
「見えた!⋯⋯って」
「⋯⋯ちょっとぉ、大き過ぎませんか?」
それは、まだ少し距離があるにもかかわらず、天を突かんとする程に大きかった。
⋯⋯大き過ぎる。足元で戦ってる冒険者たちがまるで豆粒のでようだ。
「⋯⋯ふむ。高さは大体400メートルから600メートルくらいですか。確かに大き過ぎますが⋯⋯、リゲルさんの魔力量なら大丈夫でしょうね」
「⋯⋯は?」
アキナがとんでもない事を言いだした。
え?大丈夫?あの巨大な魔物相手に?
「あれ程の大きさならば魔法を外す事は無いでしょうから」
アキナは私たちの顔を見て、にっこりと微笑んだ。
「さぁ、もう少し近づきましょう!発動に合わせて冒険者さんたちに声をかけなくてはいけませんから」
「え、ちょ、ちょっと⋯⋯」
困惑している私の手を取って、グイグイと引っ張っていくアキナ。
もう諦めた。おとなしく、やれる事をやろう。
「⋯⋯っ!おい!そこの三人組!何故こんなところに来やがった!ここはあぶねぇからさっさと逃げやがれ!」
「お前たちがいると邪魔なんだよ!あっちへ行きやがれ!」
魔物の近くまで行くと、そこで戦っている先輩冒険者たちに怒鳴られた。当然の反応だ。多分私が彼らの立場だったら同じ事を言うだろう。
「大丈夫ですわ。論より証拠。皆様をお手伝い致します」
「⋯⋯は?手伝いだぁ?」
「待て。⋯⋯おい、何をする気だ?」
アキナが手伝いを買って出ると、冒険者たちのリーダーらしき男が出てきた。筋骨隆々の肉体とそれにふさわしい巨大な斧。他の連中と比べても格が違うのは一目で分かる。
男の質問に、アキナが臆せずに堂々と答える。
「こちらには広範囲魔法が使える方がおります。あれ程の巨体です。下手な魔法使いよりはお役に立てると思いますわ」
「確かにな。⋯⋯その男がそうか?」
男は私を見て言った。
「ええ、その通りです。今は説明している時間はありません。発動には少し時間がかかりますが、効果は保証致します。こちらが合図をしたら、全員でその場から離れて頂きたいのです。⋯⋯お願い出来ますでしょうか?」
アキナは簡潔に説明をし、男に頭を下げた。
⋯⋯正直びっくりした。説得だけじゃなくて、頭まで下げるとは思わなかった。もしかしたら大物かもしれない。
頭を下げた彼女の姿を見て、
「⋯⋯分かった。この場は信じよう」
男は頷いた。
「リーダー!⋯⋯いいんですかい?」
「ここまで力強く説得されて、頭まで下げるんだ。きっと、何か策があるんだろうさ。それに⋯⋯」
リーダーの男は後ろで戦ってる冒険者たちと魔物の姿を見た。
「どっちにしろ、時間の問題だ。なんでもいいから手が欲しい。⋯⋯こいつらに賭けてみるぞ」
「リーダー⋯⋯。⋯⋯分かりました」
「ありがとうございます」
男たちは無事受け入れてくれたようだ。アキナは彼らに礼を言った。
「時間が無い。やるなら早くしろ」
「分かりましたわ」
そう言うと男たちは再び魔物に立ち向かって行った。
⋯⋯私たちは置いてけぼりなんだが。
巨大な魔物はさっきから何もしていないようだった。周囲の地面にはいくつもの抉れた後があるのだが、私たちが到着してからは攻撃していない。どういう事だろうか?
「さぁ!考えていると時間はありません。早くやりましょう」
「あ、あぁ。分かった」
「さて⋯⋯、リゲルさん。あなたはどの属性が使えますか?」
「ギルドでは火と風属性で申請しているけど⋯⋯」
「⋯⋯本当は?」
「⋯⋯全属性つかえます」
素直に白状した。アキナの目を見てると、なんだか隠し通せる気がしない。
「やっぱりそうでしたか。あなた程の魔力量の持ち主が二属性のハズはありませんもの。⋯⋯にしても、全属性は凄いですわね。今回は水属性でいきましょう。アレを一気に凍らせますわよ」
「え」
「魔力の制御と反動相殺はこちらで行います。あなたは方角指定と、魔法を撃つ事だけを考えてください」
「⋯⋯制御、出来るの?」
「もちろんです。でなくては、魔法屋などやってはおりません。⋯⋯わたくしを信じてください」
アキナは優しく、微笑みかけながら言った。
この人は本気で私を信じてくれている。そんな気がする。
「⋯⋯分かった。やろう」
覚悟は決まった。後はやるだけだ。
「⋯⋯クリスタル・コフィンを使う。アキナ、よろしく」
「⋯⋯クリスタル・コフィンですか。さらりととんでもない魔法を使うのですね。⋯⋯承知致しました。それでいきましょう」
アキナは若干戸惑いながらも了承した。
クリスタル・コフィン。
対象範囲を絶対零度の冷気で凍てつかせる、水属性の超級魔法だ。利点は、対象範囲外には影響を受けない事と超級魔法にしては燃費が良い事。欠点は、対象地点を設定してから発動させる為、動く相手には当てられない事。今回の相手は移動しないようなので、こちらを採用した。ちなみに、これより上位の魔法には『グラシアス・ワールド』があるが、多分使う事は無いだろう。
私は足元に姿勢制御用の魔法陣を展開する。すると、アキナが私の前に立ち、別の魔法陣を足元に展開した。彼女の魔法陣は私の魔法陣の外周を囲むように帯状に展開されていく。
「リゲルさん、魔力の制御はわたくしにまかせて、思いっきり撃っちゃってください!」
「分かった。効果範囲の集束もお願いしたいんだけど⋯⋯」
「大丈夫ですわ。それも込みでの魔力制御ですので」
「ホントに!助かるよー!」
なんて事だ。アキナは優秀だった。よし、これなら⋯⋯。
「魔力充填完了」
「アイビスさん!皆様に避難指示を!」
「⋯⋯はっ!わ、分かりましたぁ〜!」
この場で一番置いてけぼりを食らっていたアイビスが、急いで冒険者たちの元へ駆けつけ、避難指示を伝えて退避させる。
「みんな離れろぉぉぉ!巻き添えを食らうぞ!」
リーダーの男が叫びながら避難する。
やがて全員が避難したのを見て、私は詠唱を開始した。
『其は永遠にして絶対の理。かの者を氷の棺にて閉じ込め、断罪する⋯⋯』
巨大な魔物の足元から白い冷気が出てくる。それが徐々に上に登っていく。
『絶対凍結、クリスタル・コフィン』
私が魔法を唱えると、巨大な魔物の足元から氷が出現し、魔物を一瞬にして覆い尽くした。それは、まるで氷の柱か塔か⋯⋯。幻想的な光景が出来上がった。
絶対零度の冷気で凍てつかせれば、生物は必ず絶命するはずである。復活する気配も無い。問題無いだろう。
「「「うおおおぉぉぉぉぉぉ⋯⋯!」」」
遠くに避難していた冒険者たちから歓声が上がる。中には立ち尽くしたまま動けない者、腰を抜かした者もいた。
戦いは終わった。後片付けという問題が残っているが⋯⋯。
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