第10話:正体不明の魔物と魔力の制御方法
夜。
私、アイビス、アキナの三人は夕食を済ませた。どれも私が作った簡単な料理だったが、皆美味しそうに食べてくれた。アキナは行き倒れてたせいか、家の食料を全て食べ尽くしてしまった。⋯⋯明日以降どうしよう。
食後に少しのんびりとしてから、私はアキナにある質問をしてみた。
「⋯⋯ねぇ。アキナは冒険者になって路銀を稼ごうとか思わなかったの?」
「⋯⋯冒険者、ですか?」
一人でここまで旅をしてきたのだ。多少は戦えるだろうと思っているのだが⋯⋯。
「冒険者として依頼をこなせば食事代くらいは稼げたのでは⋯⋯?」
「⋯⋯あ。そうでした。すっかり忘れてましたわ⋯⋯」
「⋯⋯⋯⋯」
やっぱり忘れてたか⋯⋯。
「というか、アキナさんは戦えるのですか?」
アイビスは疑問をぶつける。まぁ魔法使いは後衛職。近接戦闘に持ち込まれれば無力に等しい。
それに第一印象が行き倒れだ。戦闘出来るか疑問に思うのは当然だった。
「はい。一応戦闘は出来ますよ。ただ攻撃魔法は得意では無いので、幻覚魔法等で足止めしたり、使い魔を召喚して戦わせたりするくらいですねぇ」
「⋯⋯つまり、単独での戦闘は向いてないという事⋯⋯?」
「はい。その通りです」
今までの一人旅、よく無事だったものだ。
一通り聞く事は聞いた。後は明日どうするかになるわけだが⋯⋯。
「師匠師匠。私、アキナさんとここにお泊りしても良いですか?」
「うん?まぁ空き部屋はいくつかあるし、それは構わないけど⋯⋯」
「やたっ♪アキナさーん、今日は私といっしょに寝ましょう!」
「え、ええ。わたくしは構いませんよ。ミカゲにも出てこないように言い聞かせますので。ただ、リゲルさんは、よろしいのですか⋯⋯?」
「うん、大丈夫。私一人でしか使ってなかったし、部屋は空いてるから好きに使って」
「ありがとうございます。⋯⋯では、アイビスさん。行きましょうか」
「はい♪それじゃ師匠、おやすみなさい!」
「はいはい、おやすみ〜⋯⋯」
二人はそのまま部屋へと入っていった。仲が良さそうでなにより。
「⋯⋯あ」
明日の予定、聞くの忘れた⋯⋯。まぁ良いかな。明日の事は明日にしよう。
とりあえず、アイビスから預かった短剣を仕上げなければ。
私は、そのまま地下の工房へと降りた。
*****
翌日。私たちはギルドへと向かっていた。なにせ昨日で家の食料が無くなったのだ。今日で可能な限り稼いでおかなくてはならない。それに、これからお店を開くアキナにとってもお金は必要だ。今日に限っては、多少危険であっても一つ上のランクの依頼を受けなくてはならなくなる事もあり得る。二人には事前にその事を伝えており、二人とも仕方がないと了承してくれた。
そしてギルドへと着いたのだが⋯⋯。
「⋯⋯なんだろ、この騒がしさは」
ギルド内は騒がしかった。受付嬢が忙しなく動き回っており、掲示板には無数にはあった依頼書は無く、代わりに一枚の依頼書が貼り出されていた。
《ランク不問:草原にて出現した正体不明の巨大魔物の討伐。 報酬金1,000,000フロン》
法外な報酬金が設定されていた。正体不明で巨大。よく分からない。
「スゴい依頼ですね、師匠」
「正体不明の魔物。ちょっと怖いですわね⋯⋯」
「そうだなぁ。⋯⋯ちょっと訊いてきてみるよ」
私は近くにいた受付嬢のレミィさんに尋ねてみる事にした。
「レミィさん」
「うひゃっ!⋯⋯あ、あぁ、リゲルさん!どうしま⋯⋯って、もしかしてあの依頼書の事でしょうか?」
流石ギルドの受付嬢。話しかけただけで通じた。
「ええ、そうです。あれはどういう事なんですか?」
そう尋ねてみると、レミィさんは少し躊躇いながらも答えてくれた。
「⋯⋯あれは昨日の夜遅くに突然出現したらしいのです。見た事も無いような不気味な姿形、ドラゴン並みに巨大な大きさ、地面を大きくえぐる程の攻撃力⋯⋯。今ランクAとBの冒険者さんたちが総出であたっているのですが、未だあの魔物は健在でして⋯⋯」
話を聞けば聞く程おっかないものだった。このギルド最高ランクの冒険者たちが束になっても倒しきれていないとは⋯⋯。
「あの魔物は大変危険ですので、他の依頼は全て止めています。リゲルさんたちはまだEランクなので、街の外には出ないでくださいね。良いですね!」
「⋯⋯⋯⋯」
ものすごい勢いで念押しされた。それだけ心配してくれているのだろう。少し嬉しい。
私はレミィさんから聞いた事を二人に話した。
「まさかそんな事になってるなんて⋯⋯」
「高ランクの冒険者さんたちが倒せないというのは、それだけ異常な相手という事ですわね」
「⋯⋯で。これからどうしようか。これじゃああの魔物を倒さない限り、お金が稼げないんだけど⋯⋯」
依頼が受けられない以上、冒険者はお金を稼ぐ手段がほとんど無い。今の私たちには死活問題だった。
「うーん」と悩んでいると、アキナが意外な提案をしてきた。
「⋯⋯ならば、やる事は一つ。わたくしたちもあの魔物退治を手伝いに行きましょう」
「⋯⋯へ?」
「えええぇぇぇぇっ!ちょ、ちょっと待って。アキナさん、聞いてました?相手は正体不明のバケモノですよ?高ランクの冒険者たちが束になっても倒しきれていないバケモノですよ?私たちが行ったところで⋯⋯」
アイビスが必死になってアキナを説得する。
「確かに厳しい戦いにはなるでしょう。アイビスさんは近接戦闘型のようなので厳しいでしょうが、わたくしとリゲルさんなら魔法が使えますし、援護くらいは出来るでしょう。何もしないよりはマシだと思いますわ」
アキナが衝撃的な事をさらりと言った。
「⋯⋯何故、私が魔法が使えると分かったの?キミには今まで一言も言ってなかったハズだけど」
「あ、それは私が昨夜教えたからですよ。師匠」
アイビスがさらりと白状した。⋯⋯アイビスとの約束事は信用出来ないな。
「それだけじゃありませんよ。リゲルさん、あなたの魔力量は群を抜いています。わたくしも職業柄たくさんの魔法使いたちを見てきましたが、それ程の魔力を持った人は会った事がありません。リゲルさんなら問題無いでしょう」
「⋯⋯無理だよ。私は、この魔力を制御出来ないんだ。援護どころか、周りの味方をも巻き込んでしまう」
魔力の制御。それが出来なきゃ使い物にならない。
だが、アキナはそれが何でもないかのように言った。
「それはそうですよ。あなたの魔力量は人間の許容量を超えています。何故それで無事なのかは分かりませんが、今はそれは置いておきましょう。あなたの魔力制御に必要なのは使い魔です。それも二体。通常の使い魔ではあなたの魔力に耐えきれずに破裂してしまいますので上級の使い魔が必要になりますが、今回はわたくしが代わりに行います」
アキナはぺらぺらと早口で説明していく。それは私にとっても目からウロコな情報だった。なにせずっと探していた魔力の制御方法が分かったのだ。それだけでも顔がにやける程に嬉しかった。
だが、今はそれどころではない。すぐににやけた顔をキリッと正す。
「それでは行きましょう。手遅れになる前に、早く!」
こうして、私たちは正体不明の巨大な魔物がいる草原に向かう事になった。
⋯⋯ホントに大丈夫なのかな?
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