第8話:行き倒れと修理

 翌日。


 街は普段よりも賑わっていた。というのも、「草原でもの凄い火柱があがるのを見た!」「他国の侵略かな?」「新種の魔物かも⋯⋯」などなど、先日のアレが噂になっていた。街から結構離れていたとは思うのだが、それでも見えてしまっていたか⋯⋯。ますます使う訳にはいかなくなった。




 *****



「⋯⋯ん?」


 ギルドに向かう途中、建築中の建物が目に映った。建物自体はほぼ完成しているらしく、作業員は建物の塗装工事に移っている。ふと、その横に立て掛けられてる板が目についた。


『魔道具店 ラ・フィーユ。近日開店予定!』


 と書かれていた。魔道具店。これは実に興味深い。魔力の制御が出来ないという私の問題が解決するかもしれない。魔力を抑えてくれる魔道具とかがあれば理想的だ。


 私はこの店の場所をしっかりと記憶し、その場を後にした。




 *****




 ギルド館の前でアイビスと合流し、採取系と討伐系の依頼をいくつか受けた。今回の依頼はダンジョンから這い出てきたスライムを討伐する、というものだ。軟体生物のスライムは、戦闘力は殆ど無いが、核を潰さなければいくらでも再生してしまうので侮れない魔物だ。⋯⋯なのだが、アイビスはそれらを瞬殺してしまった。


「核が見えてるので余裕です!」


 とは本人の弁。スライムを見つけるなり短剣を投擲して核を潰していった。短剣を投擲、仕留めたら剣を回収。これの繰り返し。私がやった事と言えば、最初にスライムの倒し方を教えただけ。


 依頼は、昼を過ぎた頃には全て終わった。薬草類の採取も手分けしてやったらすぐに終わった。


 彼女の能力の高さには驚くばかりだ。




 *****




 ギルドに戻り、依頼達成の報告も済ませた私たちは、近くの飲食店に入って魔道具店の話をした。


「良かったじゃないですか〜。もしかしたら師匠の問題が解決しそうですねっ」


 アイビスは嬉しそうに言ってくれた。先日私の魔法を間近で見ていた彼女は、放心状態に陥っていた。必死に声をかけ続け、彼女が気がついたのは数分後の事だった。


「まぁ、そもそも魔道具店っていうのがどういう店になるのか分からないけどね。でも、私自身あの店にはかなり期待してる。質が良ければお得意様になるかもしれない」


「良いじゃないですか〜、常連さん。色々とサービスしてもらいましょうよ〜♪」


「⋯⋯うん、そうだね」


 他愛もない話をしながら紅茶を頂く。会話に華を咲かせながら飲む紅茶はとても美味しかった。




 *****




「⋯⋯師匠、師匠。あの人、どうします?」


「⋯⋯ん?」


 そう言ってアイビスが指差した先には、路地裏だった。その影では、人が倒れていた。


「⋯⋯はぁ」


 どうしようか。ああいうのは、関わると面倒事に巻き込まれる可能性が高い。それに、こちらも余裕は無い。出来れば無視したいところだが⋯⋯。気づいてしまった以上、無視するのも心苦しい。


 助けるか、見なかった事にして立ち去るか。


「⋯⋯仕方ない。助けてみようか」


「はいっ!」


 返事するなり、アイビスはいきなり走り出した。私もその後に続く。


 倒れていたのは女の子だった。背は低く、髪は短く、黒いローブを纏っており、右手には杖が握られている。典型的な魔法使い職の装備だ。


「⋯⋯ぅ、⋯⋯っ」


 わずかに声をあげる。見たところ外傷は見られない。となると、行き倒れか?


「⋯⋯師匠。まだ生きてるみたいですよ?」


「⋯⋯緊急時だ。とりあえず私の家に連れていこう。ついてきてくれる?」


「はいっ!行きます!師匠のお家、見てみたいですっ!」


 威勢よく返事したな。そんなに来たかったのか⋯⋯。ちょっとコワイ。




 *****




 家についた。


 私の家は、街の端っこにある小さな丘の上に建っている。この家は、今は亡き私の師匠が使っていた家だ。師匠には家族はいない為、今は私が使わせてもらっている。


 私は、背負ってきた少女を来客用のの寝室のベッドに寝かせた。


「ほえぇ〜⋯⋯。師匠のお家、とっても大きいですね〜」


 アイビスは興奮した様子で中を眺めていた。


「中も広くて、部屋もたくさんあって、台所もお風呂もあって⋯⋯!凄いですっ!」


「これ。人が寝てるんだ。大人しくしなさい」


「あうっ」


 興奮するアイビスの額を軽く小突く。そして頭を撫でる。


「はふぅぅ〜〜⋯⋯♡」


 アイビスは大人しくなった。どうやら頭を撫でると落ち着くらしい。まぁ彼女は背が高いから、頭を撫でられる機会が無かったのかもしれない。これからもちょくちょく撫でていこう。


「⋯⋯ん?師匠、あそこの階段はなんですか?」


「ん?⋯⋯あぁ、あそこか」


 地下室への階段を見つけたようだ。本当に観察力が高いな。


「あの階段は地下室へと繋がってる。⋯⋯興味があるなら見てみる?」


「地下室!ぜひお願いしますっ!」


 即答だった。好奇心旺盛なようでなにより。


 私は、そんな彼女に半ば呆れながら地下室へと案内していった。




 *****




 地下室は工房になっている。生前、師匠はここで自分の装備を自分で作っていた。今私が使っているハンドソードも師匠が作ったものだ。材質は師匠曰く「もの凄い硬い何か」らしい。今まで刃こぼれした事は無いので、師匠の腕の高さが良く分かる。


 他にも、薬剤調合の為の台もある。側にはたくさんの薬草やら薬品やらが収められた棚がある。


「わぁぁ⋯⋯。す、凄いです!これ、工房じゃないですか!ここまで立派な工房なんてそうそう無いですよ!」


「生前、私の師匠が使っていた工房なんだ。⋯⋯あまり触らないでよ?」


「はぁ〜い。⋯⋯と言う事は、師匠も武器が作れるんですか?ここ、最近も使われた形跡がありますけど⋯⋯」


 驚いた。一目見ただけでそこまで分かるのか。


「まぁね。鍛冶の基本は教わった。と言っても本職には遠く及ばないけど。今はもっぱら修理に使ってるよ」


 今の私の技術では安物のペーパーナイフが関の山。装備品の修理技術を中心に教わったのだから、武器作成はあまり出来ない。


「修理出来るんですか?!だったら私の短剣たち、診てもらえませんか?私、自分じゃ上手に手入れが出来なくて⋯⋯」


「そうなの?まぁそれくらいなら良いけど⋯⋯」


「やたっ♪じゃあお願いしま〜す!」


 そう言ってアイビスは短剣をじゃらじゃらと出してきた。腰から脚からマントから⋯⋯。その数、計10本。


「⋯⋯⋯⋯」


 まさか、私を武器屋の代わりだと思ってないよね?⋯⋯ちょっと心配になってきた。


「⋯⋯はぁ、分かった。明日までには終わらせるよ⋯⋯」


「お願いします♪」


 ⋯⋯このところ、少しづつ図々しくなってきてる気がする。元々こんな性格なのかもしれないけど。


 まぁ出会った当初からすれば、ここまで元気になってくれたのは正直嬉しいし、これくらいは良いかな。


 しょうがない。きれいに直してあげよう。

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