第3話:初めての仲間
翌日。
私はギルドに来ていた。余程の事が無い限り、依頼は毎日受けるようにしていた。討伐系の依頼をほとんど受けていないせいか、ランクが上がる気配は無いが。
ランク昇格は、積み重ねた実績をもとにギルドマスターが判断するのが主流だ。私の場合は討伐系の依頼をほとんど受けていない為、戦闘力の判断が困難なのだろう。冒険者登録してから三年以上は経過しているが、ランクは一つしか上昇していない。今のところ不自由は無いのでそのままでも良いのだが。
ちなみに、Cランク以上は1ランク毎に特定の試験を受ける必要がある。以前はBランク以上からだったのだが、Cランク冒険者の死亡率が一番高かった為、Cランクへの昇格にも試験を設けるようになった。昇格試験は年に一回、雪が溶けた時期に行われる。合格人数に上限は無い。実力が一定の基準に届いてさえいれば良いらしい。実力主義の冒険者たちには実に有り難い。
「さて、今日はどの依頼にしようかな⋯⋯」
依頼書が張り出された掲示板に目を通していると、「あの〜」と後ろから声をかけられた。
振り向いて声の主を確認すると、そこには見覚えのある人物が立っていた。
「ん?君は昨日の⋯⋯、確かアイビスだったか?」
「⋯⋯あ、はい。憶えていてくれて嬉しいです、リゲルさん」
先日、私が助けた少女・アイビスがそこにいた。
「あの、その⋯⋯、お時間、よろしいですか⋯⋯?」
どうやら私に話があるようだ。私は頷いて、一緒にギルドの隅にある椅子に腰掛けた。
「さて。私に話かけたって事は、何か用があるんだよね。⋯⋯聞いても良いかな?」
「⋯⋯はい。お話します」
アイビスは、少しづつ話し始めた。
「⋯⋯私、冒険者になってまだ数日です。特訓はしていましたが、戦った事は無い上に魔法も使えなくて⋯⋯。かと言ってパーティー組んでくれる人もいないし⋯⋯。結局、一人で行動するしかありませんでした。そしたら昨日、あの魔物に襲われて⋯⋯」
徐々に声が小さくなりながらも、アイビスは絞り出すように言葉を続ける。私は黙って言葉を聞き続ける。
「⋯⋯分かったんです。このままじゃ、ダメだって事。⋯⋯私、このままじゃいけない。強くならなくちゃいけないって⋯⋯」
アイビスの言葉に少しだけ熱がこもってきた。両手は固く握りしめられている。
そして少しの沈黙の後、アイビスは私の目を見て、意を決したかのように言葉を発した。
「⋯⋯お願いします!リゲルさん。わ、私を、リゲルさんの、その、⋯⋯弟子に!⋯⋯していただけませんか!」
「⋯⋯え?」
弟子?私が?
「そんないきなり⋯⋯」
「お願いします!⋯⋯私、強くなりたいんです!」
決意は固いようだった。⋯⋯これは、折れそうにないな。
私は考えた。
一人で行動するには限度がある。採取依頼の途中で魔物に襲われる事もある。複数の魔物に囲まれたりすると危険だ。
二人ならば、弱点を互いに補いあう事が出来る。依頼達成までの速度も上がる。何よりも効率が良い。それにアイビスは魔法が使えないと言っていた。つまり、戦闘技術さえ鍛えれば前衛を任せられる。私はどちらかといえば魔法の方が得意ではあるので、いざという時に前衛がいれば安心して魔法を使う事が出来る。最も、魔力制御に問題があるのだが⋯⋯。
そこで私は、一つの提案をした。
「⋯⋯なら、パーティーでも組んでみるのはどうかな?」
「⋯⋯え?あの、それはどういう⋯⋯」
「元々私は弟子を取れる程の器じゃなくてね。それに、ちょうどパーティーメンバーが欲しいと思っていたところなんだ。依頼達成も早く済ませられるし、空いた時間で修行も出来る。⋯⋯その、君が良ければ、だけど。⋯⋯良いかな?」
私の提案に、アイビスは目を輝かせながら全力で頷いた。
「はいっ!もちろんです!ありがとうございます!」
満面の笑顔だ。カワイイ。師匠が飼っていた犬を思い出す。
「⋯⋯ふあっ?!」
「お、⋯⋯っと」
私は、無意識の内にアイビスの頭を撫でていた。アイビスの身体が、一瞬ビクッと震えた。
私はすぐに手を引っ込めた。
「ごめん。⋯⋯嫌だったか?」
「⋯⋯あ」
手を引っ込めると、アイビスは名残惜しそうな目をしながら私の右手を眺めていた。
⋯⋯撫でて欲しいのだろうか?
「⋯⋯まさか、撫でて欲しいのか?」
「⋯⋯⋯⋯はい」
僅かに頬を染めながら頷いた。⋯⋯まさかだったか。
もう一度撫でてみる。すると、一瞬ビクッとするが、徐々に身体の堅さが取れていき、やがて恍惚の表情を浮かべた。
「ふぁぁ〜⋯⋯」
撫でられているアイビスは、それはそれはとても気持ち良さそうだった。見ていてとても微笑ましい。
⋯⋯もはや犬だな。いや、この表情は猫かもしれない。
「⋯⋯これから、よろしくな」
「⋯⋯はい。よろしくお願いします〜⋯⋯」
こうして私は、初めての仲間が出来た。
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