第2話:出逢いと救出
私は右手の刃を回転させ、魔物へと突撃した。考えてる余裕は無い。人を助けるのが先だ。
「間に合ええぇぇぇっ!」
私は全力で草原を駆け抜け、魔物トライホーン・ベアーと冒険者の少女の間に割って入る。そして左手を魔物に突き出す。
「ラウンドシールド!」
私が魔法を唱えると、左手から巨大な防御壁が展開された。
ラウンドシールド。正面への攻撃を防ぐ為の魔力障壁だ。物理・魔法問わずに防げる為、私が最も重宝している魔法だ。欠点としては、私が細かな魔力運用が出来ない為にシールドが過剰な大きさになってしまう事か。私が展開したシールドは、縦・横に広範囲に拡がっていた。ここまで大きなものは必要無いのに⋯⋯。
「⋯⋯ぁ、⋯⋯ぁぁ」
案の定、巨大な魔力障壁を目の当たりにして少女は腰を抜かしていた。まぁ仕方のない事だ。
トライホーン・ベアーは障壁に弾かれて怯んでいる。やるなら今か。
私はハンドソードを構えて突撃した。トライホーン・ベアーの右腕の迎撃をギリギリで回避し、勢いそのままに右眼を刺し貫いた。
「ギャオォォォォッ!」
トライホーン・ベアーが悲鳴をあげ、後ろに倒れる。チャンス到来。私はすぐにトライホーン・ベアーの首を斬り、心臓があるであろう胸の一点を刺す。
しばらくして、その魔物は絶命した。
「⋯⋯大丈夫か?」
後ろでさっきからずっと腰を抜かしたままの少女に声をかけ、手を差しのべる。見た感じ、怪我はなさそうだ。
「⋯⋯あ、は、はい」
少女は返事と同時に手を取って立ち上がった。相当怖かったのだろう。まだ身体が震えていた。
「⋯⋯あ、あの、⋯⋯助けていただき、ありがとうございました」
少女は頭を下げ、礼を言った。言葉使いやその所作等から、普段からとても礼儀正しいのだろう事が見てとれた。
「気にしなくていいさ。この草原にあんなのがいる事がおかしいんだ」
そう。トライホーン・ベアーが草原にいる事がおかしい。あれは本来、森の奥にいるはずなのだ。確かに近くに森はあるが、基本的に森から出てくる事は無い。
「⋯⋯あ、あの、⋯⋯ええと」
少女は言いにくそうにしながらも、素直に白状した。
「あ⋯⋯、あれは私のせいです。⋯⋯薬草を探してて、森の奥に入っていったら、あの魔物に見つかって、追いかけられている内に森の外へ⋯⋯」
「⋯⋯なるほど」
獲物を見つけて追いかけていただけだったのだ。単純な理由だった。
「⋯⋯あ。自己紹介、まだでしたね。私はアイビスと言います。よろしくお願いします」
「あぁ、私はリゲルだ。よろしく」
お互いに自己紹介をし、街へ戻ろうとすると、冒険者の少女・アイビスから声をかけられた。
「⋯⋯あのぅ、あの魔物の死骸、どうしますか⋯⋯?」
「⋯⋯あ」
忘れていた。魔物の死骸は、物や状態によっては素材としていい値で売れる。トライホーン・ベアーの場合、毛皮、肉、角、爪と、無駄な部位が無い。そのまま持っていけばまるごと売れる。
私達二人は、トライホーン・ベアーを担いで街へ戻り、換金した後は再び草原へと戻って二人分の依頼をこなした。アイビスが受けた依頼も薬草採取の依頼だったので、都合が良かった。
そして、なんとか日暮れまでに終える事が出来た私達は、へとへとになりながら街へ戻った。
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