黄天の地

遅筆屋Con-Kon

青緑の川

第1話:始まりと選択

 人生に選択肢は無数に存在する。どちらを選び、それがどうなるかは誰も分からない。それは私も同じだ。


 私はリゲル。Eランク冒険者。普段はギルドの依頼をこなして生計を立てている。本来は魔法主体で戦う魔導師ではあるのだが、どういう訳か『広範囲魔法』しか覚えられず細かな魔力制御も利かない為、普段は篭手にショートソードを取り付けたような武器のハンドソードを使用している。しかも刃が手の甲部分から180度回転する為、普段の生活に支障は出ない優れものだ。これは今は亡き私の師匠が得意としていた武器であり、私が指導を受けた剣術もこのハンドソードを前提としたものである。


 私が今住んでいるところはリヴェラ王国の最西端に位置する辺境の街マルベラ。この街は隣のヴァリス帝国から最も近い街である為、国から認められた独自の軍隊を保有している。さらに、近くにダンジョンと呼ばれる古代迷宮もある為この街にやってくる冒険者も多いが、治安は良い。この街の領主の評判はとても良く、争いが起きないような善政を敷いている為、至って平和である。


 私は今、冒険者ギルドに来ている。依頼書はギルド内の掲示板に貼り出されている。そこから自分に合ったランクの依頼を選び、依頼書を受付に持っていき受注するのだ。


「⋯⋯今日はコレにするかな」


 手に取ったのは薬草採取の依頼。というか、私は採取系の依頼を率先して受けていた。ここのギルドはランクが高い冒険者ばかりが集まっている為、採取系の依頼はほとんど受ける者がいない。誰も受けないので依頼はどんどん溜まっていく。「誰もやらないなら自分がやろう」そう思い、ずっと採取系の依頼を受け続けている。無くなる気配は全く無いが。




 私は草原に来ていた。解毒草・麻痺消し草等の薬草は一部を除き、だいたい草原に生えている。日の光を万遍なく浴びる為には草原が一番適しているだろうと考えているのだが、本当のところは分からない。


 薬草の採取を始めて約2時間。8割ほど集まったが、まだ足りない。

 私は、この地道過ぎる作業に楽しみを見出していた。薬草をキレイに採取出来た瞬間の気持ちよさは、何ともいえない快感がある。その快感をもう一度味わおうと集中してると、時間はどんどん過ぎていく。


 そんな時、遠くで何やら騒々しい音が聞こえた。私は作業を一時中断し、音が聞こえた方向を見る。


 どうやら冒険者が魔物に襲われているようだ。


 冒険者の方は、長身の少女のようだった。黒いマント、申し訳程度の胸当て、手にはナイフが握られている。冒険初心者の基本装備のようにも見える。


 魔物の方は見覚えがあった。人間よりも大きな胴体、3つの角、警戒色のような黒と黄の色合い。


「⋯⋯トライホーン・ベアーだ。厄介だな」


 トライホーン・ベアー。3本の角による突進と大きな爪による引っかき攻撃が脅威の魔物だ。脅威度ランクはD。適切に対処すればEランクの冒険者3人ほどでも倒せるが、それでもあの腕力・突進力は侮れない。直撃すれば一撃での絶命もありうる。パーティー単位での討伐が基本だ。


「⋯⋯やれやれ。どうするか」


 私がとれる行動は主に2つ。助けに向かうか、無事を信じて助けを呼ぶか。私の魔法を使えば一撃だろうが、広範囲魔法しか使えない以上あの冒険者を巻き込む恐れがある。剣で応戦すれば良いだろうが、捌ききれなければ今の装備では一撃で終わる。助けを呼びに行くのが正解だろうが、間に合わない可能性が高い。それではあまりにも後味が悪い。


 ⋯⋯どうやら、選択肢は初めから無いようだった。

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