台湾時光

黒木夏兒(くろきなつこ)

第1話 よし、台湾行くぞ 出発前 2009年7月初台湾 

 台湾に行くぞ、と決めたのは、実はほんの偶然。

 2009年というのは、新型インフルエンザが世界で猛威を振るっていた年だった。

 当時、私はまだ会社員。以前の同僚だった「あおやん」と久しぶりにお茶でもしようぜという話になり、渋谷の道玄坂上に当時あった台湾茶店「華泰茶荘」で待ち合わせることに。なんでそこだったのかは、確かその待ち合わせ前に私がユーロスペースで映画を見ていたんだったと思う。

 あおやんは、ゴールデンウィークに初パリ旅行を予定していて、パスポートも更新していた。しかし、新型インフルエンザのせいで、到着した旅客機内に患者がいた場合、同乗していた全員がそのままホテルで缶詰め、というパターンが割と頻繁に起きるようになっていた。

 そんな訳であおやんはパリ旅行を断念。そして暇だったので私とお茶していたのだ。

 当然、話題は行くはずだった旅行のことになる。そして、私も実は数年前、なんとなくパスポートを取得して、そのままにしていたのを思い出した。

 ちょっとどこかへ海外旅行に行ってみようか、と二人の意見が一致した瞬間だった。

 そして、そこは台湾茶店。ふと横を見るとテーブル上にはショップカードが置いてあり、そこには「台北本店」の住所が書いてある。


 台湾。

 割と近いというのはまあ知っていた。

 中国語。

 私が半年ちょい前まで学んでいる(基礎級と初級)。

 英語。

 あおやんが得意。数回スイスやらイタリアやら行っている。

 初めての中華圏旅だが、これならなんとかなりそうだった。


 目的。

 せっかくなので、このお店の台北本店にお茶を買いに行くのはどうだろう? それと、台湾で買いたい本がある。と言うか、行きたい書店がある。


 そこまで決まったので、後は何日間台北に行くか、だ。というわけで、これまた今はもうなくなってしまった渋谷駅南口の東急プラザに入っていたHISに移動した。

 HISで台湾旅行のパンフを見ると、JTBの案内が色々並んでいる。

「基本台北オンリーで、○○日で巡る台湾、みたいにはしない」。

「土産物屋がついてくるツアーとか、団体旅行は嫌だ」。

 この二点を基準に探したところ「台北三日間」「台北四日間」というのがあった。

 成田を午前中に出て、午後に桃園空港着。

 ガイドさんが空港に迎えに来てくれていて、ホテルまでチャータータクシーで送迎してくれ、チェックインを代行してくれる。

 帰りもガイドさんが昼頃にホテルに迎えにきてチェックアウト手続きをしてくれ、チャータータクシーで空港まで。日本には夜に到着(電車が普通にある時間帯)。

 台北初心者(そして海外旅行初心者)にとても優しいツアーだ。

 日数は、台北で過ごせるトータル時間を二日にするか三日にするかなので、余裕があった方がいいだろうと四日の方を選択。

 そして、これが実は一番の決め手になったのだが、二日目のところにオプションとして「故宮博物院見学」OR「ガイド送迎付きフリー」というのがあったのだ(これが後々のトラブルの元だった)。

 これなら郊外の見学もやれるじゃないか(故宮は数年前にうちの親が行っていたので、数時間で見るとか無理なのはわかっていた。このため、今回は行かないことに決めていた)。

 という訳で、ツアーは決まった。日付だけは会社に行って、有給の日程を調整してから決定することにし、ホテルは決めてしまうことにする。

 ホテルの基準としては、「シャワーブースが独立していてバスタブの中で身体を洗わずに済むこと」を私が主張。生理が来た時のための予防策としてこれは大事。

 その条件を満たすホテルとして「慶泰大飯店チンタイダーファンディエン(ガーラホテル)」に決定した。


 そして翌日、有給の交渉が終わり、木・金と有給を取って日曜に帰国すると旅行の日程が決まる。

 しかし、新型インフルのせいで、有給取った後も「今の時期に海外って危なくない?」と上司に言われまくり、「台湾の方が日本より罹患者数も罹患率も低いんです!」というのを票作って説明してようやく黙らせる。

 この時は、一年前の2008年から総統が馬英九さん(國民党なので、割と中国とは仲が良かった)だったので、台湾がWHOにオブザーバー参加できていた。だから、WHOの新型インフル患者リスト見ると台湾の患者数データが(順番がC欄でもT欄でもなく、もろ員数外って感じでラストではあったが)載っていた。だからこの説得が可能だった訳だが、WHOに無視されてる今回も、台湾は日本よりはるかに罹患者数も罹患率も死者数も低い。そして第二波もなく国内経済が回り始めている。


 そして、旅行決定した五月から、出発する七月まで、私は半月前に初級を卒業して中級に進まずお休みしていた中国語の勉強を、まるまるおさらいすることにした。


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