第2話 見せたがり症候群
見せたがり症候群。
それが、戦場において兵士たちを恐怖と羞恥の渦に叩き込む、恐るべき《症状》の正体である。
乙女である少女たちにとって、決して晒してはならない神聖なる領域。
清廉と貞淑の象徴であると同時に、恥じらいの根源でもある一枚のアンダーウェア。
パンツ、パンティー、あるいはショーツなどと呼ばれる絶対不可侵の布切れは、彼女たちにとって命と同等に尊ぶべき崇高な存在であった。
誰にも見せず、ただスカートの中に秘めておくことを良しとして。間違っても自ら露出したり、まして見せつけたりなどするはずもない。それが乙女として当たり前の観念であり、嗜みであった。
そんな少女たちの良識を打ち砕き、何にも代えがたいはずの乙女の象徴を自ら露出させようという衝動へと誘う恐怖の《症状》――「見せたがり症候群」は、彼女たち兵士にとってこの世で最も忌むべき法則であったといっても過言ではないだろう。
正気であれば決して行うことのない背徳の行為への衝動。
その発症は、主に不本意なパンツの露出をきっかけとする。
事故で、あるいは強制的にスカートの守りを失いパンツを露出してしまった少女は、以後、再びパンツを晒したいという強い欲望に囚われ自制心を失う。
羞恥心が損なわれる訳ではなく、むしろパンツを見られることを恥ずかしいと思う感情は倍増する。というよりも、パンツを見られる恥ずかしさが増すからこそ、パンツを晒す衝動が強まるのではないかとも言われている。
羞恥の中で体感する特殊な高揚感。その尋常ではない興奮がホルモンの異常分泌を促し、脳内麻薬のように作用して依存状態を惹起するのではないかという学説も存在しているが、正確なところは明らかになっていない。(なお、この仮説を裏付ける傍証としては、初めてパンツを見られた際により激しい羞恥の反応を示した者ほど発症のリスクが高いというレポートなどが存在する)
ひとたび見せたがり症候群に罹患した少女は猛烈な露出の衝動に突き動かされ、ところ構わずスカートをめくり上げてパンツを見せつけるようになってしまう。
さらにパンツを見られた罹患者の脳内には、全身を突き刺すような快感の奔流が発生する。見られれば見られるほどに高まる快感の波は到底常人に耐えきれるレベルではなく、パンツを湿らせながら気を失うほどの恍惚感に満たされることも少なくない。
また、見せたがり症候群は容易に治癒することはなく、露出の衝動は何度も繰り返し再来する。
本人の意思とは無関係とはいえ、そのような状態に陥った生徒を留め置くことは淑女たるを旨とする学園列島の生徒に著しい悪影響を及ぼすことから、罹患した生徒は即時学籍を剥奪されて、列島外の療養施設へと移送される決まりとなっている。
だが、学園列島の秩序と罹患者の将来を案じて定められたこの規定は、皮肉なことに、やがて列島全体を巻き込む大戦の遠因へと繋がっていった。
見せたがり症候群を発症した生徒は学園列島を追放される。
このルールを逆手に取ってライバル校の有力者を列島から追放に追いやり、他の学園を支配下に置こうと画策する、複数の野心家が現れたのである。
当初、幹部個人に対する《
各校は生徒会を頂点とする軍事組織を構築し、軍事力によって支配権を拡大しようと、大規模なスカートめくり会戦を繰り返していく。
こうして、のちに「第一次パンチラ大戦」と呼ばれる凄惨なスカートめくり劇の舞台は、無数の少女の恥辱に塗れながら、拡大の一途を辿っていったのである。
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