ひるのきょうしつ

蛙鳴未明

ひるのきょうしつ

「え〜、なにこれ〜」


 大声につられてむくりと体を起こす。行儀よく並んだ机の群れ。その向こう側で二人の女子が教壇を挟み、その上に転がる何かを興味深げに覗き込んでいる。目を凝らす。人と人の合間からのぞくのは、どろりとした赤い液体に浸かっている肌色の――うで?


 全身を寒気が襲い、僕は思わず吐きそうになった。


「ねえねえゆいぴ、これなんだろー?」


 くわんくわん揺れる世界に能天気な声が響く。見れば分かるだろう。腕だ腕、人間の腕。


「え〜……腕じゃね?」


「うで……?あ、腕かあ!確かに〜」


「ねえねえ、ストーリーあげようよ」


「あ〜良いね〜」


 カシャカシャリと音が鳴る。なんだ。なんだなんだなんなんだこれは。腕だ、腕だぞ人間の腕。それが目の前に転がってて、なんでそんなに平然と――むしろちょっと喜ばしそうにいられるんだ?まったく訳が分からない。頭がどうにかなりそうだ。僕は目を泳がせる。女子たちは再びわやわやと


「ゆいぴみてみて~、めっちゃいい感じじゃない?」


「ほんとだ。カナさすがじゃん」


「でしょ~?……はいこれでおっけと。いいねくるかな~」


「くるっしょ。腕だよ?トレンドじゃん」


「トレンド~?ゆいぴトレンドって言いたいだけでしょ~」


「あ、バレた?」


「んもお~ゆいぴったらあ!」


 笑い声が脳を揺らす。本当におかしくなってしまいそうだ。ここまで普通の会話をされるともはや僕のほうがおかしいんじゃないかと思えてきてしまう……いや本当にそうじゃないのか……?いやこれは異常なはずだ……おかしいのは僕じゃない……


「うわっ!」


 大声が響く。僕はいらいらと二人を睨みつけた。頭が痛い。朦朧としている。大声を出すんじゃない。


「なになに~?どし――うわすっごい伸びてる!」


 願いは無残にも打ち砕かれ、僕はさらなる頭痛に襲われた。頭を抱え、殺意をこめて二人を睨む。そりゃ伸びるだろ腕だぞ。


「いいね千……二千……まだまだ伸びてる!うわ、コメントもめっちゃ来てる!」


「やばいね~。これが『ばずる』ってやつじゃない?」


 違う、それは「炎上」だろ。どうせコメントも荒れまくって――


「『その腕すごいですね!』『ステーキにしたらおいしそう』『いい腕ですね、奇麗です』……すごい、すごいよ!すっごい褒められてる!」


 あ

















あggsつdjがgfはdjfgfがあsdさあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”……!

どうなってるどうなってるどうなってるどうなってるんだ本当に意味が分からないなんでなんでなんでなんでおかしいおかしいんだよなにがおかしい?おまえらだ何なんだよ本当にここはどこだ?僕がおかしいのか?そんなはず――あああああああああもう何でもいいとにかく終わってくれ異常だ異常だ異常だどうにかなって……終わってくれ……


 ガラガラリ


「二人とも何やってんの?」


 誰?顔を上げた先にいるのはもはや救世主。眉をひそめて二人を見つめてる。


「あ~りんりん~」


「ねね、これみてこれ!」


 彼女は促されるままに腕に目をやるその額にひどくしわが寄る。僕にはそのしわが輝いて見えた。ああ常人だ――彼女の口が開く――さあ次の一言でこの世界をぶち壊して――


「それ、誰の?」


 突っ伏す机にがっくりと。もう……だめだ……よくわからない。うつろな頭を声が揺らす。


「え~?誰のかって――アイツ」


 え?


 どろりと何かが溶け出した。重い頭を持ち上げて、恐る恐る肩を見やる


「え"?」

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