34. 美月の下へ!
「あ、が……。う、嘘だ、ろ……」
「悪いがアサギとミツキに迷惑をかけてくれた奴らの仲間に手加減する気はない」
ひとつもいいところが無く、仁にボロクソにされてあっさりと退場する金髪。見るからのパワーファイターだったが力比べで、
「デッドリーベアの足元にも及ばないな。エレフセリアでは一分も生きていけない」
と、金髪はあっさり負けたのだった。
「さて、敦司は――」
そう言って無精ひげの男との戦いを繰り広げている敦司へ目を向けると、状況は芳しくないとわかった。だが、仁は助けに入らず様子を見守っていた。
「くそ……!」
「はっはっは! 喧嘩自慢のようだが、それじゃあ勝てねえぜ小僧。相手の動きをよく見て、こうすんのさ!」
「うお!?」
敦司の腕を取って鳩尾に肘を入れ、そのまま腕を捻る男。刹那、敦司はまずいと直感し、動きに逆らわず自分から地面へとダイブしうつ伏せになる。
「へえ、今ので腕一本もらっていくつもりだったんだがねえ? プライドの高い……ほら、そこの角刈りみたいなやつは倒れるのを良しとしないから結構折れちゃうんだ」
「チッ!」
寝そべったまま、エビぞりよろしく後頭部に蹴りを食らわすと無精ひげの男は転がるように敦司から離れ即座に立ち上がり構える。
「体、柔らかいねえ。どう、俺の弟子にならねえ? こういう荒事やってりゃ適性ががありそうなヤツに会えると思ってたんだが、お前なら面白そうだ」
「合気道か何かか……? へっ、そりゃ無理な話だぜ! 今からお前は俺に負けるんだ、俺より弱い奴が師匠ってのはないだろうがよ!」
「お、違いないな! ところでそっちの兄さんは見てるだけでいいのかい? 俺はこいつとやり合ってるから勝手にいってどうぞ?」
仁はそれを聞いて、エレベーター横の壁に背を預けて返す。
「……行く時は敦司と一緒だ。もし敦司が負ければ俺がお前を倒して敦司を背負ってでも連れて行く」
「へっ……何者か知らねぇが、あんた相当やばいな?」
いわゆる歴戦の勇者である仁の雰囲気を感じ取り、無精ひげの男は
「よそ見している暇はねぇぜ!」
ビュっと敦司の蹴りが男の顔面を捉えるが、難なくそれをかわし足払いを仕掛けてくる。
「やべ!?」
「足技は迂闊に使うとこうなるんだぜぇ?」
転がった敦司を踏みつけようとした足を上げると、敦司はその足に対して自分の足で蹴り返した!
「んなぁにぃ!?」
男は転がって避けるだろうと威嚇の意味も込めて足を上げただけで、転がった先で止めを刺すつもりだった。だが、予想に反してそのままカウンターを決めて来たのだ。たたらを踏んで後ろに下がる男に、今度は敦司が反撃をする。
「おらぁ!」
「おっと!」
バシッ! ガッ! 拳が骨にぶつかる音がエントランスに響き、ギリギリの攻防が繰り広げられる。しかし、仁の見立て通り不利なのは敦司だった。顔にあざをつくり鼻血を出す。
狂犬と言われた喧嘩自慢でも、本物の格闘家相手には分が悪い。それでも相手を観察する仁は自分ならと首を鳴らす。
「やるねぇ小僧!」
「ま、まだまだぁ!」
敦司のパンチをガシッと掴み、男は敦司の目を見ながら何を思ったのかニヤリと笑い尋ねてきた。
「お前、マジで面白いぜ。あの嬢ちゃんを助けに来たんだろうが、相手は二階堂グループの会長だぜ? すぐに連れ戻されるに決まってる。無駄なことは止めて帰ったらどうだ? 別に恋人ってわけでもねぇんだろ?」
「……それがどうした……」
「お?」
「それがどうしたってんだ……! あいつは友達で不本意でここに連れてこられた! 俺はそういうのが大っ嫌いなんだよ! 俺達ゃ親の道具じゃねぇんだよ……!」
「う、お、おお!?」
ゼロ距離で掴まれていた拳に体重を乗せて一気に吹き飛ばす。ずしゃぁと床をすべるようにこけてしまう男。だが、即座に態勢を整えるのは流石の一言だ。
「浅かったか……!」
結構ボロボロにされたが、目にはまだ光が宿っており、敦司はゆらりと男へと近づいていく。その様子に仁が出るかと考えた時、男が構えを解いて肩を竦めて口を開いた。
「止めだ止めだ! お前みたいな後先考えないやつは後が怖いから嫌なんだよ。おら、行ってこい」
「あん? どういうつもりだてめぇ……!」
「言葉通りだ。俺はもう戦う気が無い。勝手に16階でも何でも行けってんだ」
「……どういう風の吹き回しだ?」
仁が目を細めてから男を値踏みするように見ると、
「別に。お前等は面白ぇ、あの傲慢な会長にもしかしたら一矢報いるんじゃねぇかと思ってな。事情は知らんが、会長よりお前達の方が正しいんじゃないかってな」
エレベーターを操作し、扉を開けると仁と敦司に中へ入るように指をさす。警戒しながら乗り込むも男が何かをしてくることは無かった。
「ふう……あいつ本当に弟子になってくれねえかなあ」
「……ふん、得体のしれん奴につくわけがないだろうが」
「なんだ目が覚めてたのか」
「とっくにな。小僧はわからんが、あの仁と呼ばれていた男、あいつはやばいな。三人がかかりで勝てるかどうか、だ。早めにリタイアしておいて正解だ」
「ちがいねぇ。どんな地獄を見て来たのやら……酒でも飲みに行くかー。どうせ報酬はないだろうからワリカンな」
「ちっ。しっかりしてやがる。おい、気絶したフリしてねぇ行くぞ」
角刈りが金髪の身体を揺すりながら声をかける。が、
「きゅう」
「こいつ、普通に気絶している!?」
「あーあ」
◆ ◇ ◆
チーン――
特に妨害も無く、仁と敦司は目的地の16階へと辿り着いた。ふたりは廊下を歩き、探索を開始。すると一つだけすりガラスの扉に『応接室』と書かれた、電気のついている部屋を発見。
「ここか?」
「多分な。ここに居なくても虱潰しだ」
それもそうかと仁は納得すると、敦司はすぅっと大きく息を吸い、大声を上げながらドアを開けた。
「こんばんは! お邪魔します! 三叉路をお迎えに上がりましたぁ!!」
「邪魔するぞ」
バァン! と、勢いよくドアが開けられた先には――
「せ、先輩! それに仁さんも!」
「し、侵入者だと!? あやつらは何をしていた!? ま、まさか、会わなかったのか!?」
会長がソファから立ち上がり怒声を浴びせてくるが、困惑の色が隠せない。敦司は眉を潜めた後に返事をした。
「あいつら? 角刈りに金髪か? エントランスでのびてるぜ! 残念だったな、三叉路は連れて帰るぜ?」
「美月です先輩! ……来てくれてありがとうございます」
「お、おう」
美月が敦司の胸に飛び込み上目遣いでにこっと笑い、敦司がそっぽを向いて顔を赤くする。そこへ仁が前へ出て会長を睨みつけながら口を開く。
「そういうわけだ。ミツキは返してもらう」
「ぐ……。き、貴様ら! 覚悟はできているんだろうな! 暴行に不法侵入だ、これだけで十分犯罪に――」
「それがどうした? 俺はこの世界の人間じゃないからそんなものは知らん。……アサギとミツキ、それと敦司に迷惑をかけてくれた礼をさせてくれ。俺達の部屋がめちゃくちゃになったのはお前達のせいだろう……?」
「この世界の人間じゃない……だと!?」
ゆらり、と仁が会長に迫ると速水が立ちはだかってきた。
「か、会長には近づけさせんぞ! 部屋だと? そんなもの知るか!」
そこで美月はハッと目を見開き、仁へ叫ぶ。
「仁さん! さっきおじい様は仁さんとアサギさんを『焼け出されたふたり』と言っていました! あの場に居たか、犯人じゃないと部屋が火事になったことはわからないはずです! ……おじい様、部屋に火をつけるよう指示したのはあなたですね」
「ええい、構わん速水、なんとかして黙らせろ……!」
「へへ……ぶっ殺してやる!」
「きゃあああ!」
「仁さん!」
速水は懐から短刀を出し、スラリと鞘から抜いた。ギラリとした刃が蛍光灯の光を受けて輝いていた。叫ぶ美月。慌てる敦司。だが、仁は目をわずかに細めるばかリで気にした風もなく口を開く。
「ふむ。武器を抜いたか。いいのかそんなダガーで? 武器を抜いたからには俺も抜かざるを得ないぞ?」
「あん? どこに持ってるんだ? そのカバンか? なら、俺と同じような短刀だろうが……!」
「いや、俺の武器は……これだ。……はあああああああ!」
そう言って手にした剣の柄を握り、仁は全力で魔力を込める。部屋が震え、会長と速水が後ずさりをすると、やがて仁の手には光り輝く刃の聖剣が出現していた。
「す、すげぇ……!?」
敦司が感嘆の声を漏らした瞬間、速水が動いた! 短刀を振り上げ、仁へと襲い掛かる。
「おもちゃか! びびらせやがって! 死ね! 死ねぇ!」
「唸れ……グリムガルド!」
速水の短刀は意に介さず、仁は聖剣を振り上げて即座に振り下ろした。直後、天井、向かいの壁、床がスパッと斬れる。
「な、なななななんだとぅ!?」
「は、はひ!?」
「外したか……」
切れた場所は会長と速水の右隣。で、切れた床からは階下が見えており、奇麗にこの部屋の一角だけがスイカを割るように”割れた”という感じである。
カラン……
「ひ、ひい……。な、なんなんだこいつ……」
「ぐぬぬ……もういい……警察を呼ぶ! 儂の権力があれば貴様らなど……!」
「その前にその首を落とす」
「ひっ!?」
スッと構える仁に怯えて尻もちをつく会長。そこへ美月が仁の横に立ち、会長へ声をかける。
「……おじい様、もうやめましょう」
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