3. 異世界
チュンチュン……チチチ……
「ん……朝か……う?」
小鳥のさえずりを耳にしたジンが目を覚ましてゆっくり体を起こそうとして……できなかった。なぜならフリージアがジンの腕に絡みついて眠っていたからである。形のいいバストがぐにゃりとシンの腕にくっついていたりする。
「むにゅ……リーヨウ……私、朝は弱いんだから後五時間後に起こして……」
「寝過ぎだ」
ゴロンとフリージア転がすとキレイに転がって行き、壁に激突する。
べしゃ!
「何!? 敵!? 魔王たる私に戦いを挑むとは愚かな! 灰になってから後悔するが……痛い!?」
「落ち着け」
謎の構えをして早口で捲し立てるフリージアにチョップをかまして黙らせる。寝ぼけ眼できょろきょろしながら口を開いた。
「ふあ……まだ薄暗いじゃない……明るくなってから起こしてよね……」
「言いたくはないが大した奴だなお前。異世界で大胆な」
ジンが呆れながら言うと、フリージアはマントをはぎ取り、ガバッと身を起こして叫ぶ。
「ハッ!? そうよ! ここは異世界だったわ! どんな朝ごはんがあるのかしら!」
「そんな場合か……。明るくなれば人も動き出すだろう、元の世界に戻る方法がないか聞いてみるぞ」
「はーい……」
二人は干し肉を口にし、陽が上ってから行動を開始。
早速、犬の散歩に公園へ訪れていた人と接触する。見た目は六十代くらいのおじいさんだ。
「そこの御仁、少し聞きたいことがあるのだがいいか?」
「んー? ……な、なんじゃ!? 朝から面妖な格好をしおって!?」
「……由緒ある鎧なのだが、おかしいだろうか?」
「おかしいに決まっておろう! い、行くぞ、ミッチェル!」
「あん!」
全身を鎧で覆った男など現代日本で怪しくないわけがなく、おじいさんはポメラニアンと共に早足でその場を去っていく。
「ああー!? 犬が行っちゃう! 待ってぇ、わんわん!」
「お前も話に参加しろ……。む、体力づくりか? 走っている人がいる、聞いてみよう」
「任せたわ!」
マントを掴んでそんなことを言う、他力本願のフリージアをジト目で見てから無言でジョギングをするお姉さんに声をかけに行くジン。
「すみません――」
◆ ◇ ◆
15分後――
キィ……キィ……
「……誰も話を聞いてくれないわね……」
「ああ……」
公園には色々な人が散歩や通勤の経路として使ったりと、人通りは多かった。だが、ふたりが声をかけるとそそくさとその場を立ち去っていくのだ。
いよいよ人通りも少なくなり、昨夜赴いた通りへ出る必要があるのだが、ふたりは完全に撃沈されブランコで項垂れている。
「やっぱあんたの顔が怖いからじゃない?」
「そう言われても顔を変えることはできないだろうが。 それを言うなら魔王、お前の服の露出も問題なんじゃないか?」
「代々魔王家に伝わる正装にケチつけるわけ!? ……いいわ、異国の地、ここがあんたの墓場になるのよ!」
そう叫んでジンへ手を翳し不敵に笑う。
「おい、止めた方がいいんじゃないか?」
「怖気づいた? <カースド・ブリザイン>!」
ギィィィン!
フリージアの手に魔力が集中し、周囲が冷気に包まれる。いくつもの氷の刃が出現し、
「頭いたぁぁぁぁぁ!?」
ブランコからフリージアが転げ落ちた。
出現した氷の刃はごとりと音を立てて地面に落ちる。
「……言わんこっちゃない。立てるか?」
「ううう……痛ぃ……」
ジンが手を差し伸べようとしたところで、
ジャリ……
と、砂を踏む音がして人は慌てて振り返る。そこには鍔のついた帽子と、青い服、腰には短めの武器だと思われるものを着た男が二人、笑顔で立っていた。
(同じ服……兵士か?)
同じ衣装に身を包み、規律を正しくする騎士を知っているジンは、胸中で瞬時にそう判断する。異世界と言えど兵士なら自分の話を聞いてくれるのでは? 向こうから来てくれたのなら好都合だと胸中で呟く。
ジンが口を開こうとしたところで、向こうから声をかけてきた。
「あー、君達かな? 公園に来る人に声をかけて驚かせているのは? 演劇の練習か何か? 僕達近くの交番勤務の者なんだけど、ちょっと来てもらえるかな? 変な男女がいるって通報があったんだよね」
「派手な衣装だな、しかし……」
もちろんこの二人は警察官。公園近くの交番に誰かが通報したのだ。はたから見れば出来のいいコスプレに見えなくもないが、早朝の公園には異質過ぎた。
「それじゃ、行こうか」
「よろしく頼む」
もし敵性が認められた場合は逃げればいい、そう考えながらフリージアへ目を向けると――
「凄いですねこの衣装! え、あれですか? 魔王ってやつですか?」
「ふふん、見る目があるわねあんた! このフリージア様の部下にしてやってもよいぞ!」
「わー! 雰囲気あるー!」
見慣れない、少女といっても過言ではない女性と話していた。すると警官がフリージアへ尋ねる。
「君、その子は友達かい?」
「いいえ、部下よ! たった今決まったの!」
自信満々にそういうフリージアに面食らう警官。次にもう一人の警官が少女へと声をかけた。
「えっと、君は学生かな? 知り合いってことでいい?」
「たった今知り合いました!」
なんだか似ている、ジンはそう思ったが口には出さず見守っていると、少女がパンと手を叩いて口を開く。
「あ、わたし一限の講義休むんでお話聞かせてください! 演劇、興味あるんですよ! 近くのファミレスで」
「フフフ、お安い御用よ」
少女がそういってフリージアの手を取って歩き出し、警官二人は顔を見合わせて困惑。すぐにジンへ向き直り声をかける。
「……じゃあ、僕達は行くよ。被害が無かったからいいけど、不審なことはしないようにね?」
「ははは、まあ朝っぱらから鎧なんか着てたら完全に不審者だからな! ん? そういえば剣か抜いてみてくれるか?」
ジンは言われて鞘から剣を抜くと、刃が無い柄だけジンの手元にあった。
「うんうん。きちんと刃はないな、それじゃ行くか。女の子、行っちゃったしな」
「そうですね」
二人の警官が去ろうとして、ジンは口を開く。
「一緒に行ってもいいだろうか?」
「ええ!? 君、彼女を追いかけなくていいの!?」
「彼女じゃない。少し話を聞きたいんだ」
「いや、それは可哀そうだろう……俺達はそこの交番にいるからいつでも来てくれていい。ほら、見えなくなるぞ」
「しかし……」
「なにがあったか知らないけど、こういう些細なことで『なんで付いてこなかったの!』とか怒り出すから行った方がいいって。聞きたいことはあそこで聞くからさ」
公園からわずかに見える白い建物、交番を指さし笑いながら去って行った。あっさりと解放したが、朝っぱらから女連れという不審者はいないと判断した
「……兵士では無かったのか? 訓練されているように見えたが……」
まあ、異世界の情報は先ほどの少女に聞くかと踵を返し、小さくなっていくフリージアと少女を追いかけるジンであった。
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