2. 放り出された二人
「うおお……!」
「いやーん!」
吸い込まれた穴の中で二人はもみくちゃになり、ぐるぐると回る。体の自由が利かず、時間もどのくらい経ったか分からない。二人はこのまま死んでしまうのかと思い、諦め始めたころに不意に浮遊感を覚える。
ぺっ!
「え?」
再び穴が開き、ジンとフリージアは突然どこかに放り出された。
ドサドサ……
「むう……ここは……ぐふ!?」
ぎゅむ
「ひゃん!? あ! ……ふははは、また私の勝ちだな勇者よ! 出直して――」
「せい」
「きゃあ!?」
ジンの上で勝ち鬨を上げていたフリージアを捨てたジンは立ち上がり、周辺を見渡した後、寝そべっているフリージアに尋ねる。
「どこだ……ここは……。魔王、お前の仕業だな?」
「いたた……私じゃないって。一緒にここに来たんだから分かる訳ないじゃない。私の仕業ならあんただけを飛ばすわよ」
「それも一理あるな。む、月があるな。それに周囲が暗いところを見ると、時間は夜か。それにしては明るい……奇妙な建造物があるが……?」
ぶつぶつと呟くジンに座りこんでいたフリージアも立ち上がり声をあげる。
「よっと……! あれは家? かしら? 大きいけど、城にしては四角いしキラキラしているわね……ってどこ行くの?」
フリージアが分析をしていると、ジンがとりあえず歩きはじめる。
「一時休戦だ。ここがどこか調べないといけない。まずは人を探す」
ガシャガシャと鎧を鳴らしながらジンは振り向かずにそう言い、慌ててフリージアが追いかける。
「ま、待ってよ! 夜道に女の子を一人で置いていく気!」
「お前は魔王だろうが、何とでもなるだろう」
「ふんだ」
冷たい言い草にふて腐れながらもフリージアは後ろをついていく。しばらく歩いていくと、二人は煌びやかな場所に出た。
「……! なんだここは……」
「人がいっぱい!? 何、あの箱? 車輪がついているけど馬車? でも馬が……って速っ!?」
二人が出てきた場所は地球……そして日本だった。あちこちの飲み屋から人が出入りし、車が行きかう様子に目を白黒させながら、近づいてきた男性に声をかけるジン。
「そこの御仁、少し尋ねたい。すまないが、ここはどこだろうか?」
「あーん? 兄ちゃん変な格好してるなぁ……今はやりのコスプレってやつかい? ハロウィンはまだ先だぜー」
「こすぷれ? いや、それよりもここがどこか教えて欲しい」
「しつけぇ兄ちゃんだな。ここは”弥生町”だろうが、酔ってるのか? 夜はこれからだぜぇ? ……お、よく見りゃいい女を連れているじゃねえか。うほ、エロい服を着てるな! どうだい、こんな無愛想な男は乗り換えて俺と来ないか?」
赤い顔をフリージアに近づけながらふわぁっと息を吹きかけると、フリージアは慌ててジンのマントを掴み、背後へ隠れ、顔を顰めて叫ぶ。
「酒臭っ!? 酔っ払いはあんたじゃない! そ、そ、そ、それにこいつは彼氏とかじゃないですー! 勇者とかお断りですー!」
「それはこっちのセリフだ。弥生町だな、すまない、情報提供ありがとう」
フリージアを隠す様に立ちながら礼を言うと、面白くなさそうに男性は口を尖らせていた。
「ちぇ、バカップルかよ! いいねえ若いヤツラはよう!」
男性は缶を蹴りながら立ち去って行き、その後ろ姿をフリージアはべーと舌を出して見送る。ジンはもう一度辺りを見渡すと、顎に手を当てて考える。
「やはり聞いたことが無い地名……とりあえず夜はああいう手合いが多いのはどこも同じか。情報収集はあまり期待できそうにないし、今日は野宿して夜が明けてから聴取するとしよう。幸い気温も暖かいし、先程の公園なら寝るのに困らないだろう」
そう言って元来た道を引き返し始めるジン。すると、フリージアが前を塞いでジンに詰め寄り憤慨する。
「ちょ、ちょっと! 野宿ですって!? 魔王たるこの私が野宿!? ゴージャススワンの羽毛布団は? イビルヒノキで作ったキングサイズのベッドは!」
「……ここは異国だ、そんなものはない」
「野宿……魔王が野宿……」
ぐぅ~
ショックを受けているフリージアを一瞥してジンが再び歩き出すと、マントを掴んでよろよろとついてくるフリージアのお腹が鳴る。
「お腹すいたぁ……」
「我慢しろ。というより俺について来なくてもいいんだぞ?」
「い、いやよ……何がいるか分からないし」
「魔王のくせにビビりか」
ジンがそういうと、フリージアは頬を膨らませて口を開く。
「ビビリじゃありませんー! 警戒しているだけですー!」
「うるさい……」
ひとまず二人は謎の建造物があった場所……すなわち公園まで戻り、ジンはきょろきょろと辺りを見渡す。
「どしたの? きょろきょろして?」
「星が出ているから天気は良さそうだが、万が一雨でも降ってきたら困る。……あれがいいな」
ジンがドーム型の遊具を見て頷き、スタスタと遊具に入って行く。中でコンコンと強度を確かめてから腰掛けた。
「……大丈夫そう?」
「だから別に無理してついて来なくていいんだが……」
壁に背を預けて目を細めるジンだが、フリージアは何も答えず向かい合わせに体育座りで座る。
「……」
「……」
ぐぅ~
しばらく無言で夜明けを待っていると、またフリージアのお腹が鳴り、顔を赤くして口を開く。
「な、何よ! いいでしょお腹が鳴っても! お昼を食べたっきりだから仕方ないじゃない! あんたを倒した後ゆっくり食事をするつもりだったんだからね!」
「何も言ってないだろ。ほら、これでも食ってろ」
ジンが腰のベルトに巻いているポーチのようなものから干し肉を数枚取り出してフリージアに投げ渡す。
「わわ!? ……暗いんだから考えなさいよ」
「……そうだな……<ライト>」
ぽぅ……
ジンが呟くとほんの少しだけ明るさを放つ球体が出てきた。
「あ、魔法使えるんだ。もにゅもにゅ。塩辛いけど悪くないわね、お酒が欲しくなるわ」
フリージアが干し肉をかじりながら笑顔を見せると、対称的にジンは脂汗を流しながらなんとか言葉を絞り出す。
「い、いや……魔力の消費が酷い……! ぶはあ!」
息を吐くとライトの灯りはフッと消えてしまい、少し差し込む月明かりだけに戻る。
「どういうこと……? <ファイア> あ……ああああ……!」
ボッっと近くにあった紙切れに燃え移り灯りは取れたものの、フリージアは頭を押さえて悶絶する。苦しみ方が尋常じゃないのでさすがのジンも慌てて四つん這いで駆け寄る。
「おい、大丈夫か!」
「らいじょうぶりゃない……」
ぷしゅーと頭から煙を出しながらカクンと気絶してしまうフリージア。命に別状はなさそうだが、魔法は使いにくいと難色を示す。
「ファ、<ファイア>うごぉぉぉぉ!?」
ジンはのたうち回りながらその辺にあった枝や紙屑に火をつけることができた。
「……暖は取れるか……助かった。しかし、これからどうしたものか……。朝になれば解決するだろうか。魔王……今なら……やれるか……」
ジンは動かなくなったフリージアを見て剣の柄に手をかける。
「……」
だが、ため息を吐いた後、フリージアにマントを毛布代わりにかけてやると、干し肉をかじるのだった。
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