7
そうして、
私にとっては、都の教会で迎える初めての
もちろん、パシオ師にとっても言うまでもない。そのパシオ師は、モレイラ師が司式した最初の日没後の前夜ミサの後、どうも物足りなさを感じているようだった。
それはイタリア半島の教会なら
「都では、この教会の中だけが
確かに、鋭い意見だ。私も日本に来て最初の
だが翌年の大村は領民すべてが
だが去年の大坂、そして都は
国中こぞって
そして長崎や高槻、大村とも違う。大村では四回あるミサを年齢別に振り分けた。高槻では御聖堂に
だが都ではそれほど大きくない聖堂に、
「長崎ではローマやリスボンと同じで、みんな大騒ぎでしたけどね」
あまりにも静かな
たしかに大村でもそうだった。最初の日没後の前夜ミサと深夜ミサとの間の夜に、断食も明けたことから人びとは教会や開放された城内で
「長崎では町も大騒ぎするわけではありませんが、どの家も深夜まで明かりがともって、そのまま夜半ミサには皆大勢の人が集まりました。
パシオ師は苦笑混じりに言った。本来はミサの時以外は家族で祝う
だがそれと対照的に、都では教会の外の町は全く明かりが消えてあまりにも静かすぎるいつもの普通の夜だった。
私は複雑な気持ちだった。
カリオン師司式の夜半ミサに続き、
私は昨夜考えたことを説教の中で述べた。
「都では、教会の周りの町の人々にとっては全く何もない普通の夜を迎えていました。今、都は平和です。それはある意味では、
私は一度言葉を切った。
「今、日本は戦乱が続いています。あまり政治的な話はここではしたくありませんけれど、そんな日本だからこそ平和というものについて考えてみるべきだと思うのです。私たちバレテンは、この日本に宣教師として派遣されてきました。そして洗礼の恵みを頂いた皆さんも、日本で生まれて日本で育ってはいても、日本というこの国に派遣されたと考えてもいいと思います。派遣とは何でしょう。誰かが何らかの目的を持って人をその場所に行かせることですね。我われを派遣したのは、我われの国の王ではありません。形の上ではローマの
一同は静まりかえっていた。いつものことながら、このミサの説教の時は、まるで私ではないものが私の中へ入って、私の口を使って勝手にしゃべっているという感覚がある。
「
本当に私がしゃべっているのではないようだ。かといって、
「私たちは今、ミサに与っています。ミサという言葉は皆さんにとって、洗礼を受ける前には聞き慣れない言葉だったでしょう。ミサとはまさしく、派遣という意味なのです。『
私は話を終わった。ミサの中で、会衆に日本語で話せるのはここだけで、あとは会衆に背を向けてラテン語で祈りを捧げるだけになる。
そして、オルガンティーノ師が司式住る日中のミサに、なんと道三ベルシオール先生も姿を見せた。ベルシオール先生にとっては、洗礼式の時を別とすれば初めて与るミサだ。ミサの中の説教は、オルガンティーノ師は日本語でしたので通訳は必要ないのだが、ベルシオール先生は耳が遠いということで、そばにフィゲイレド師が付き添って耳元でその話の内容を伝えた。ベルシオール先生はいたく感動していた。
そして驚いたことに、この日中のミサには普段はこの都の教会に通ってはいないような人々、私にとって懐かしい顔ぼれもそこにあったが、そんな
都だけでなくこの布教区内の河内や、本当なら高槻や大坂の教会の方が近いであろうと思われる摂津や和泉の方の
すべてがベルシオール先生効果だ。ベルシオール先生が洗礼を受けたということを聞いて驚き、一目お会いした遠くの人が都に集まったというような状況だ。
これも、もしかしたら『
私が会衆の中に見つけた懐かしい顔は、あの三箇の殿であったドン・サンチョである。その顔を見た途端私はうれしくて思わず声をかけた。
「今まで、どうしておられたのです?」
すでに老人の域に達していたドン・サンチョは、かつての殿であった時の服装ではなく、ほとんど町の浮浪者のようないでたちだった。
「都大路を隠れ住む生活です。なにしろ、私の首には懸賞金がかかっている」
彼は本能寺の事件の後、明智光秀の側についたことによって、その城は焼かれ、領地は奪われ、逃亡の日々を送っていたようだ。
「今日はそのようなことはとりあえず忘れて、共に主のご降誕を祝いましょう。
ドン・サンチョはその場で大声をあげて泣き崩れた。これも素敵な
こうして1584年の
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます