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ジュストの手紙には、こうあった。
まずは、信長殿の命で毛利と戦争をしている羽柴殿の援軍のために播磨に向かっていたが、その途中で信長殿の訃報を聞いた。
そこで慌てて引き返してきたが、高槻はすでに明智に占領されているのではないかと気が気でなかった。
ほとんどの兵力も重要な家来も自分が連れてきており、高槻の城内は妻や子がいるだけの裸同然である。だからすでに明智軍に占領され、妻や子、最悪の場合は教会の司祭や修道士までもが明智軍によって捕虜になっているのではないかと気が気ではなかったという旨のことが書いてあった。
同じ
そういうところでは家来や領民が城に入り込んで略奪し、秩序も何もなくなっているという話もジュストは聞いていたので、高槻でもそのようなことが起こっているのではないかとさえ思ったという。
――「しかし、私は『
「本当にそうだと思う」
と、私の後から手紙のその部分を読んだフランチェスコ師が、顔を上げて言った。
「普通ならばみんな留守の城を全部占領してしまおうと思うでしょう。明智殿はなぜそれをしなかったのか。やはり『
「いや、それは難しいです」
あまりポルトガル語が分からないはずのヴィセンテ兄が、この時ばかりは雰囲気で察したのか目をあげて日本語で言った。
「坂本は近江の国、都は山城の国の中にあります。高槻は
ところどころの日本語が難しくて分からなかったが、要は高槻だけではなく摂津の国全体が『
「
と、すでに手紙を読み終わっているオルガンティーノ師が言った。私も読み終えていたので、その言葉の真意は分かっていた。
手紙によると、明智殿がすぐに攻めてこなかったのは、ジュストは自分に味方するものと明智殿が信じて疑わなかったからというのが大きな理由らしい。
ジュストが高槻に帰還したのが何日だったのか手紙には日付が書いてないのではっきりとは分からないが、その時点で我われが坂本から途中まで同行して高槻に向かったあの明智殿の小姓、沖ノ島のシモンの甥の勘助はまだ高槻にいたようだ。
彼が高槻に向かったのは三日前の水曜日なので、少なくともそれ以降である。ジュストが信長殿の訃報に接したのがいつか、そして三日前まで信長殿の死から一週間近くたっているが彼がどこでどうしていたのかは分からない。
ただ、勘助は確かジュストを明智側に誘い込むよう説得するのが目的のように言っていたが、ジュストの手紙ではそのような感じではなかったという。
勘助はジュストが戻る前にその妻のジュスタらに対し、この城は明智殿が安全を保証するから何も心配しないようにと丁重に言上したというから、もうジュストが明智側に付くことを前提としてことを進めていたように思われる。
――「私が高槻に帰還すると、明智の使者が私を待っていました。彼はもうまるで私が明智の味方をすることは決定しているかのような態度で、明智殿からの手紙をさしだすのです。明智の味方をするようにという説得の手紙かと思いきや、読んでみるとそれは一日も早く坂本に集まってほしいという、すでに味方になっている者に宛てたような内容でした。でも、私はそのときすでに明智には味方をしないことは心に決めていたのですが、
その個所を読んだものは、誰もが鼻をすすっていた。皆一様に涙目である。その聖パウロの書簡の引用箇所だけはポルトガル語ではなく、ラテン語だった。やはり日本人でも司祭から話を聞くだけではなく、ジュストのようにラテン語にも通じていて自分の目で実際に『
かつてヴァリニャーノ師が言われていた一日も早い『
しかしそれだけではなくジュストの霊性、その信仰と志には感極まるものがある。だからこそ誰もが涙を流しているのである。
手紙はさらに、その後の状況とこれからのことが簡潔に書かれてあった。
その後、明智殿が都に来て、そしてすぐに都の南の鳥羽というところに陣を敷いたのが一昨日のこと。そして昨日はジュストが味方と安心しきって
それで明智殿はそれ以上の摂津への行軍をあきらめて引き返し、すぐそばの
それは三七殿にとっては親の仇打ちでもあるが、もし戦争となればそれは明智殿に対して摂津と河内の
ところがもう一通のフルラネッティ師からの手紙で、我われの感動は一気に冷めてしまった。
まずは高槻の様子について述べられていて、内容はジュストからの手紙と変わらなかった。
だが、悲しむべき知らせがその中にあった。なんと三箇の殿で
明智側が出した恩賞につられてとのことだった。それについてジュストもフルラネッティ師も考えを変えるように手紙を書いて説得しようとしたが、城からの使いの者が帰ってこないのだという。
最悪の場合、途中で明智側の兵にとがめられて命を落とした可能性も無きにしも非ずというのだ。
状況はだいたい分かってきたが、とりあえず我われにとっては傍観しか手はないようだった。
いつもは陽気なオルガンティーノ師でさえ、この時ばかりはさすがにため息をついていた。
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