4
三位一体の主日が終われば、その次の木曜日が
去年は高槻で大々的な行列を行い、多くの
今年は果たしてどうするのか、オルガンティーノ師の考えを聞いてみなければと私は思っていた。だが聞くまでもなくそ日曜の夜、オルガンティーノ師の方から話があるということで司祭、修道士は集められた。
「これまで毎年、
オルガンティーノ師の言おうとしていることは、だいたい察しがついた。いよいよ信長殿が「
「ご存じのように、信長殿は
「やはり、都でしょう」
と、フランチェスコ師が口を挟んだ。
「
「ただ、高槻は市民の大部分が
と、私も思うところを述べた。やはり私としては、あの高槻の盛大な行列が忘れられなかった。
「しかし、それだけに行列自体が福音宣教になるのではないですか」
フランチェスコ師が言うとおりだった。オルガンティーノ師も笑みながら、うなずいた。
「今年は、都の教会にします」
ということで、前日の水曜日は都に行くことに決まった。その日のうちに都に入ることになる。
そして月曜日を迎え、また
その日、徳川殿はいよいよ安土をあとにして都へと向かった。安土に来た時はごく少人数で見物に行った人たちは拍子抜けしたが、今度はかなりの数の軍隊を連れていたので、またもや安土中の人々は大騒ぎで見物に行った。
だがそれは、徳川殿の軍隊ではなかった。徳川殿とともに、信長殿の長男の城介勘九郎殿もともに都へと行ったのである。だからそれらは勘九郎殿の軍隊だったのだが、なぜ勘九郎殿も都に行くのか今一つ分からなかったし、またなぜここしばらくことごとく徳川殿と行動を共にしているのも不思議だった。
だが、何か事情があるのだろうと深く考えないことにした。これから徳川殿は信長殿の勧めで都、
そして我われは徳川殿が去った翌日の火曜日、つまり我われが都へ向かう前の日に城に上がって信長殿と対面した。やはり、我われが安土の地を離れるときは信長殿に挨拶を申し上げ、その道中の許可を得るべきだと考えたからだ。
我われが天主閣の最上階の部屋で待っていると、やがていつものように上機嫌で信長殿は現れた。そしていつものように和やかな会話が信長殿とオルガンティーノ師との間で交わされていた。
ところがいつもと違って、我われが「都」という言葉を言った瞬間に、信長殿の顔つきが変わった。顔を曇らせている。しばらく間をおいた後、
「どうしても今、都に行かねばならぬか」
と言った。
「たとえば十日後とかではいかがか」
「我われはキリシタンの間で行われる行事のために都に行くのです。これは日付が決まっている行事なので日延べはあり得ません」
「であるか」
信長殿は、また少し考えていた。
「分かった。実は、これはあまり大げさに言いふらさないでもらいたいのだが、予も近々都へ参るつもりなのだ。だが、バテレン殿たちは予が参る前になるべく安土に戻って来られよ。あるいはそれが無理なら、予が都に参った時も予の在所を訪ねるのは無用ということにしてほしい」
ここからはいつもの信長殿ではないような気がした。いったいこの信長殿の言葉の背後には何があるのか、我われには見当もつかなかった。
ただ、信長殿は何かをたくらんでいる、そして何かを隠している、そんなことが薄々と感じられる彼の様子であった。しかし、信長殿がこうしろといったらこうするしかない。
そして信長殿はまたいつもの様子に戻って、
「バテレン殿方も予も双方が都より戻ったら、いよいよ南蛮寺の建設に入ろう」
と、力強く言ってくれたので、それだけが明るい話題となった。
我われはまた一通りのあいさつをして、城を退出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます