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 こうしてゴアにおいて、叙階に向けての私の霊的準備が始まった。

 我とマテオは最初に入った修道院よりも少し森の中を歩いたところにあるサンパウロ学院コレジオで暮らし、勉学を続けることになった。そこには八百人以上の聖職者や神学生が生活していた。

 大部分がポルトガル人で、イタリア人やスパーニャ(スペイン)人も少しいた。

 頑丈な石造りのアーチ門を入ると、広大な敷地に多くのエウローパ(ヨーロッパ風の建築物が群れをなして建てられている。それらすべてが学院コレジオの建物で、イエズス会のゴアにおける布教本部もこの中にある。

 さらにそこにはイエズス会の創始者メンブロ(メンバー)の一人であるフランシスコ・ザビエル師の遺体が安置されている。遺体は漆喰の棺に納められていて中を見ることはできなかったが、我われはその学院コレジオに移ったその日に棺の前で祈りを捧げた。

 アクアヴィーヴァ師は同じ学院コレジオで教壇に立っていた。

 学院コレジオの聖堂での祈りと黙想、勉学の日々が続いた。なんとこの町には、不自由しないくらいの書籍も十分にそろっていた。

 そこで勉学を進めるうち、私の助祭への叙階を決めたのは大司教様ではあるが、やはり何か見えない手に引っ張られている気がしてならなかった。

 私の霊的準備を指導してくれる方の一人に、ヌーノ・ロドリゲス師という司祭がいた。ヴァリニャーノ師とは旧知の仲ということで私も親近感を覚え、師も私に非常に親切にしてくれた。ある日、聖堂でそのロドリゲス師は、立ったまま私に言った。


「霊的準備とは、あなた自身を主に捧げ、あなた自身を主に明け渡すことです。そしてキリストとの出会い、キリストとの交わりを、さらに育んでいかねばなりません。日本の方々が、あなたを待っていますよ。待っているのはあなたの言葉ではなく、彼らがキリストと出会うその瞬間を待っているわけで、あなたはその手助けに行くのです」


 私がうなずいて聞いていると、師は豊かな笑みを漏らし、椅子に座った。


「かつてナジアンズの聖グレゴリオは、次のように言っていますね。『他人を浄めるにはまずは自分自身が浄くなければならないし、人に教えるためには自分がその教えをしっかりと身につけていなければならない。他人を照らすためにはまず自分が光となり、他人を『天主デウス』に近づけるためには自分が『天主デウス』に近づき、他人を聖なるものとするためには、自分自身が聖霊聖体化していないといけない』とね」


 たしかにその言葉は、私の記憶にもあった。


「まずは、あなたの霊性を高めることです。そうなると自ずから導く力も高まります。あなたが浄きものになって、導く力が増し来ることを『天主デウス』は待ち焦がれております。己を無にして、主のみ声に耳を傾けましょう」


 そのひと言ひと言が心に刻まれたが、最後の部分、主のみ声に耳を傾けるということだけが今一つつかめずにいた。

 『聖書』を読んで、そこに書かれたキリストのみ言葉を心に刻み込めということなのか、祈りの中で主のみ声を聞きとれということなのか…しかし、私ごときにそう啓示などが下るはずもない。そうなると『天主ディオ』はひたすら沈黙を守られるのである。

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