第29話 夕闇の中



夕闇の中ぬるい風うけて

踏み込むペダルの軋む金属音

一番星まではまだまだ遠く

暮れてくオレンジが別れを告げる


額を流れる汗を拭きもせず

目指す先には何があるかなんて

知らないし知りたくもないけれど

ただ前だけを見て来る夜を待つ


この手を伸ばして掴めるものは

きっと儚くて壊れてしまいそう

けれどどうしても触れたくなって

震える指をそっと差し出した


パリンと高い音が響いて

粉々に砕ける透明のそれは

昇る月の光を背にうけて

七色に色を変えては堕ちていく


いつの間にか暮れていった陽の

残像を瞼に宿しながら

手のひらからこぼれていった

何かを闇に葬った

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