第一話 魔王の侵略

魔王は、誕生したは良いものの、侵略とは何か?征服とは何をすれば良いのか?頭を悩ませていた。


「さてと……征服ねぇ……歴代の魔王は一体どうやって征服したんだろうなぁ……」


考えること約二時間。魔王は必死に頭を回転させて、遂に答えを導き出した。


「そうだ! ククク……良い事を思いついたぞ……征服は……後だ。先ずは近くの街で友好関係を作り……そして俺がそれを一気にふみにじる! そうする事で、魔王が誕生した事を世に知らしめる事ができるだろう! ハーッハッハッハ!!」


魔王が二時間考えて導き出した答えとは、付近の街と友好関係を作ってから、それを潰すという騙し作戦だった。


魔王は高らかに笑い、自分の考えが魔王にとって最高に相応しいと自惚れる。


「ええっと……付近の街はっと……」


魔王は、名付けて『最終蹂躙兵器すまーとふぉん』をポケットから取り出し、その中のアプリ。『ごーぐれマップ』を起動する。


「んー……俺の周り……なんっも無えなぁ!? ぜんっぶ草原……。でも? 最も近くて……? 【魔王軍侵略対策砦シュタルク】ねぇ……此処に決めた!! 距離、5.6km!」


【魔王軍侵略対策砦シュタルク】

そこは歴代の魔王が勇者によって征服が覆された時に作られた砦街。聖王国セレクリッドからエリート部隊が派遣され、諜報部、技術部、整備部、戦闘部と四部隊に構成されている。砦建設後は、いつ魔王軍が侵略してきても良い様に、常時厳重な警備は怠らない。

 そして、魔王城より最も近い場所に建設された理由は、砦より外はかつての魔王軍の領地だったからである。


魔王は、5.6kmも離れた砦街を目指し、歩を進めた。


歩き始めて三時間。残り2.3kmとごーぐれマップには書いてある。


「んー時間掛かるなぁ……なんか乗り物とか有れば良いんだけど……でもそんなもん作れる技術部無えし……この先の街ついたら交渉してみるか!」


そうして歩いて計五時間で漸く砦らしく大きな門構えをする街に到着した。


門には銀色の鎧を全身に纏った警備兵が六人体制で門を見張っており、その表情は目の先にあるであろう魔王城方面を見据え、真剣そのもの。


そんな厳重警備の中、魔王は警備兵に話しかける。


「よーっす! 中に入って良いかな?」


魔王の見た目は、黒髪で瞳は燃える様な紅色。白い肌に少し見せる八重歯を生やし、白い毛皮のファーが付いた真っ黒く闇のようなマント、真っ黒な装束に黒いブーツ。

 そして決め手は、禍々しい闇のオーラを放ち、警備兵が見ても分かるほど、完璧な魔王である。


魔王が声をかけた瞬間、一人の警備員が叫ぶ。


「魔王が来たぞおおおお!! 全兵! 構えぇ!!」


門番の六人の警備兵は、魔王に向けて鋭利な長槍を構える。そして、砦の上にいた軍師はそれぞれの部隊に呼びかける。


「諜報部は伏兵を探せ! 魔術兵、攻撃魔法準備! 技術兵、バリスタ射撃準備! 戦闘兵は弓を構えぇ!」

「え? ちょちょちょ!! 待って待って!? 俺攻撃する気一切無いんだけどぉ!?」


そんな魔王の弁解も無視し、軍師の指示によって攻撃は開始される。


「全射撃攻撃部隊! 目標、魔王らしき対象! 放てえぇ!!」

「やめてええええええ!!!」


魔王の慌てに攻撃は問答無用に降りかかり、数十のバリスタは魔王の体を串刺しにし、数十の魔術師による火球は魔王を火達磨にし、数百の矢は魔王の体に無数に突き刺さる。


「ぎゃあああああ!! あちちちち!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!」


それは約30分に及ぶ悲惨な集中砲火だった。


攻撃終了後、長槍を持った警備兵が丸焦げになり体と地面を貫通しているバリスタで串刺しにされた魔王の生死を確認する。


「クソ魔王めっ! …………何……? 生きているだと?畜生! 止めを刺してやるッ!」


長槍を持つ警備兵が倒れた魔王に止めを刺そうと槍を振り上げた瞬間、軍師がそれを止める。


「待てッ!! そいつは魔王では無い……いや、魔族なのかも疑う……」

「は……? どういう事でしょうか?」

「今、諜報部から報告があった。伏兵は何処にも潜んでおらず、魔王城付近も特に平和そのもの、新たな魔族が生まれた痕跡すらない様だ……もしかしたらそいつは……魔王城の調査隊かも知れん!!!」

「なんですって!? どうしましょう! まだ息はある様です!!」

「医療部! 至急、体に突き刺さったバリスタを慎重に抜き、応急処置を! その後、医療室へ運べ! 絶対に死なせるな!!」


軍師は、医療隊に魔王を運ぶ事を指示すると、医療部は大人数で魔王を救出に掛かる。


これが再来魔王の初侵略となった……。

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