第22話   シスターの出生

「ええ。この教会が建設される以前のことなら、少し」


シスターは 静かに 語ってくれた


「以前のこの土地は、人も少なく、お店もまばらでした。皆様、農作業と狩猟、そして川魚を釣って、つましく生活していたそうです」


ほとんど 自給自足であった


「当時の教会は、遠く離れた隣町に一軒しかありませんでした。お年寄りが通うにはつらく、子供連れの親が通うのも、大変な道のりでした。道の舗装ほそうが、まったく間に合っていなかったからです」


それで ここに 教会が建てられたと


私は 依頼人を 夢で何度も 殺害する

その犯人の 手掛かりが 欲しい


シスターに 犯人の特徴を 伝えてみた


「……」


シスターは 私を じっと見つめた

それは 短い時間だったが

私の肝を きんきんに 冷やした


「心当たりが、ございます。この教会の初代管理人をお勤めになった、蛾を専門に扱う昆虫学者の男性です」


依頼人を 夜な夜な 撲殺する男は

学者風だったと 聞いている


まさか

いや まだ決めつけるのは 早い気がした


「この教会は、彼の援助で建設が叶いました。皆様、たいそう喜ばれたそうで、それに関する資料が、隣町の博物館に保管されております」


なんという 善人だろうか

さぞ 多くに愛され

満たされた暮らしを 送ったに 違いない


「本当に……彼が善意の人だったならば、どんなに良かったか。彼は女性を殺害した罪で逮捕され、しかし護送中に逃走を。真冬の冷たい川の中へ身を投げて、死亡しました」


なんてこった


「彼が書いてきた数多の論文は、じつは彼だけの着眼点では完成しなかったそうです。いつも傍らに、彼を支える女性がいて、被害者は、その女性だったそうです」


依頼人かもしれなかった


「さらに彼には、印税で囲った大勢の愛人が。子供もいました」


シスターは 私をじっと見つめた


「私は、彼の孫にあたります」




私は もっとよく 考えて 動くべきだった


しばらく シスターの顔を 見つめ

そして なにも考えず シスターの 手を

両手で 包んでいた


そうして 彼女の体温を 感じ取り

自分の しでかしたことに 気づいて

言い訳も のどにつまって

私のほうが 震え始めた


「ありがとうございます」


シスターは 笑って 目を細めていた



美しく 強い人だと 思った


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