第21話   鏡の中のオレンジ色

どういうことだろうか


教会のある位置が 草原だったならば

隣接している この霊園も

草原だったことになる


なにも なかった この土地

そんな時代の 資料に 心当たりがない


さっき シスターに会ったばかりだ

まだ その辺に いるかもしれない


ここらが 草原だったのか

尋ねてみなければ


緊張する

のどが 乾く



何か 食べる前に 手を洗いたい

洗面台に 移動した


水道の 蛇口を ひねっても

すぐに水が 出てこないのは

いつものことだ


ふと 鏡に映った 自分の顔に

飛び上がるほど 驚愕した


初めて見る 自分の顔が 映った鏡

これが 私の 顔

私の 頭部


髪と目の色が オレンジだった


髪と目の色が オレンジ色

こんな男性は 初めて見る

どこの国の 人間だろう


私は 鏡の中の 自分と

頭突きせんばかりに 見つめあった


嬉しかった けれど

想像していた男よりも

ずっと おかしな青年で

寂しそうで 不満そうで


ああ 私は こんな顔だったから

周りから 心配されていたのだと

情けなくなった


笑顔の練習 否 微笑む練習が

必要だと思った


噛みしめるように

顔を 洗う


世界に 少しだけ 色が付いた


私の世界だ




知人から もらった 小型の冷蔵庫

修理を繰り返してばかりで ぼろぼろだ


ジュースと 何かの食べ残しを

適当に 食べて 気がついた


オレンジジュースが 好きなことに


私は 柑橘系の味が 好物なことに


好きな物が あるということに

気づけた


鏡の中の 私といい

私の中の 私を 認識することが

また一つ できたのだ



私に いろいろな変化が起きたのが 嬉しい

こんなにも 嬉しいだなんて

何か 新しいモノが 自分の中に

そして この手の中に 収まった気がする


私は わかる

自分のことが 少しだけど わかる


もっと知りたい


自分を 知りたい


私を 知りたい



一人 はしゃいでしまって

恥ずかしくなった


ベッドに 仰向けになり

シスターに なんて言って 切り出そうか

考える


シスターは オレンジの髪の 男について

今まで どう思っていたのだろうか


それは 尋ねる勇気が なかった


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