第19話   依頼人に報告

けたての 空というものは

肌寒さを そのまま色に たとえたようで


つまり 今 とても寒いということで


しかし 小屋に帰るには

この山たちを 越えねばならぬと いうことで


やはり 仕事の配分を 間違えてまで

依頼を こなすのではなかったと

後悔しながら


腕を さすりさすり 山肌を登ってゆく



公園が 見えてきた頃

依頼人の家の 煙突から

煙が 上がっていた


お茶でも 沸かしているのだろう


彼女は 昨夜 悪夢を 見なかったのだろうか


こんな早朝から 訪ねにゆくのは

勇気がいるから

ちょうどよい 時間になるまで

公園のベンチで 座っていようか


と 思っていた

そのとき


家の扉が 開いた


「あら! このたびはどうも!」


私の姿を 見かけるなり

依頼人の女性が 元気に 手を振った


辞儀じぎだけして 去るのも 良くない

私は 依頼人のそばまで 歩いていった


「墓守さん、昨夜は何かしてくださったんでしょう? 私をクワで殴り続ける恐ろしい男が、昨日は出てきませんでしたの。ああ、久々に安眠できましたわ」


どうやら 私は 成功したらしい


「次の夫たちも、期待しておりますわ」


そうだった

彼女を苦しめる 夫たちは 複数いた


「焼き菓子と朝食をご用意していますの。食べてくれる人もいないっていうのに、私ったら、はしゃいじゃって」


大はしゃぎしながら

焼き菓子を 作る ご婦人を

想像すると シュールだった


家の中に 招かれ

暖かな 室内の すみ

まきストーブを 見つけた


煙突の 煙は

ここから出ていた


目玉焼きと マフィンを

ご馳走になる


味付けが いっさい無いからと

顔を しかめるわけにも いかず

美味しい ふりをして 過ごした



食後の お茶を いただき

また お手洗いを 借りたあと


次は どんな男か 尋ねてみた


「ろくな男ではありませんわ。大きな眼鏡をかけていて、見てくれは真面目まじめな学者風なんですけれど、どういうわけか大きな石で私を殴り倒しますの。草原が血の海になるのですわ」


彼女は あらかじめ 用意していたのだろう

手描きの地図を 私に よこした


「早くあの男も葬ってくださいまし」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る