第17話   グレイブヤード空間

オレンジを 探すよう 頼まれたが


亡骸の 周辺の 腐った果実を 持っていけるほど


私は 神経が 太くない


お供え物かも しれないからだ



女性の遺骨を 通り過ぎて

職業柄とはいえ 冷静な自分に

少し 驚き

そして 慣れとは かくも人を

冷酷たらしめるものだ と

悲しく なりながら


私は 自分が助かるための

出口を 探して

暗闇を 歩いた


機械が 鳴る



雑音が ひどく

私は 音が 澄み渡る 方角を 探して

歩き続けた



灯りが ともり

私の 目の前には

あのミイラの男性が いた


椅子に 縛られていた


その口の 顎は外れて

いろいろな 果物が

顔の穴に 詰め込まれていた


「俺は殺された」


機械から 声が聞こえた


「出稼ぎから帰ってきた男たちにだ」


それは 自業自得だから 同情はできない


「だからって、死んでからもこんな目に遭うか? 俺がいったい何をしたっていうんだ」


その口調は まるで

潔白だといわんばかりだった


「もう気は済んだだろ。なんで俺はまだここにいるんだ。なんであの女は俺をここに、縛り続けるんだ」


私は ミイラに向かって

オレンジの発見を知らせた


「持ってきてくれ」


それは 断った


腐って どろどろに なっていたことと

おそらく 女性への供物であることを

話した


「ああ」


座っていた ミイラが

突如 顔を上げて 私を見た


「それ、俺が供えてやったんだ」


黒く 乾ききった 肌が

ぱきぱきと 音を立てて

笑みを 作り出す


「化けて出てくるなよ、ってな……」


ミイラの頭部が

ぼとり と

足元に 落ちた


灯りが パチンと音を立てて

消えた


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