第15話 地下深く
男の部屋は 二階だそうで
階段は 廊下の奥だそうで
その道中に 落とし物を したかもしれず
オレンジ一つ 見つけるために
廊下を 観察しながら 歩いた
妙なのは 食堂や 手洗い場
さらには 客室らしき扉が
一つも 見当たらないこと
私は なんの部屋にも
挨拶ができないまま
廊下奥の 階段を 上っていった
階段は 途中で
段が 無くなっていた
ただの 急角度のついた
すべり台になっていた
どういう 内装工事だろうか
人外の泊まる ホテルに
今更 苦情など 言わないが
一階に 部屋がないのならば
二階を 探したかった
手すりも ない
ロープなども 持ってきていない
運動神経に
多少の 自信がある者も
山を 歩き回った 足では
怪我のもとになる
私は 跳び箱を飛んだことも
マラソンで ゴールテープを 切ったことも
記憶にない
階段も 二階に 繋がってない
ミイラオレンジ男に
事情を 話すことにして
階段の途中で 回れ右
下りの階段は
どこまでも 続く 洞窟のように
終わりが 見えなくなっていた
上がれもせず 下りるしかない
この状況下で
頭をよぎるのは
埋葬された 彼らのことだった
私が いなくなったとき
代わりの者が すぐに来るだろう
そして 私の代わりに
彼らと ともに あり
霊園を 管理する
社会とは そういうものだ
けど 捜しに 来て くれるだろうか
彼女は どれほどの 期間
心配して くれるのだろうか
私は 誰かの
そして 彼女の 心の中に
死後どれくらい長く 居続けていられるのだろうか
あんがい すぐに
忘れられてしまう
そう思うと オレンジが というより
他人の探し物が
少しだけ どうでもよくなった
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