第14話 座っているミイラ
その客は 私の後ろに いるという
振り向くと
さっきと 違った景色だった
狭くて がらんとした フロントは
広々と くつろげる
快適な 待合室へと 変わっていた
そこそこ 座り心地の よさそうな椅子に
ミイラが 縄で 縛り付けられていた
霊園の 管理人である以上
警察の 指示で
墓を
だから 悲鳴は あげなかった
ミイラが のそっと 顔を上げ
黄ばんだ両目で
私を 凝視するまでは
「誰だ……」
土色の くちびるが 動いていた
黒ずみと カビに支配された
袋のような 変わった衣服は
ぼろぼろに 擦り切れている
もしも このミイラの 趣味でなければ
私と 身につけている物の 時代が 違う
「あんた……オレンジをたくさん見なかったか」
この声
機械が 拾っていたものに
よく似ていた
私は 一つも 目撃していないと 告げた
ミイラが 正気を 疑う表情になった
「嘘こけ、この一帯は、俺のオレンジ畑だぞ」
と 言われても
普通の 山だったが
「ああ、本当だ。飛ぶように売れたぜ」
うなずいておいた
「で、だ……あのオレンジが、どこにも見あたらねーんだ。俺はさっきまで、持ってたんだ。捜しちゃくれねーか、兄ちゃん。俺ぁもう、一歩も歩けねぇんだ。もう何年もここで捜してる」
何百年もの 間違いではないだろうか
私は 学校を 出ていない
出たかもしれないが 覚えていない
この山が 昔 本当に
畑だったのかも わからない
調べるためには 資料がいる
そして資料は
拠点にしている 小屋にある
この暗さでは 山を越えられない
私は 受付嬢に 視線だけで 助けを求めたが
少女はすでに 奥の扉の中へと 撤退していた
私に この恐ろしい客の 面倒を
押しつけるつもりらしい
冗談じゃない
さすがに 帰らせてもらう
扉の取っ手に 手をかけた私に 対して
扉は 施錠という形で 応えた
開かない
取っ手が 回らない
後ろで ミイラの 悲しそうなため息が 聞こえた
オレンジとやらを 見つけ出す ことにした
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