第13話   ホテルというより山小屋

黒い扉を 開けると

扉に付いた ベルが 鳴った


「はいはーい!」


無人の 木製の 受付場から

元気な声が


受付奥の 扉が 開いて


茶色のような 亜麻色あまいろのような

なんとも言えない 髪色の

活発そうな 少女が 現れた


髪の毛を 頭の両側面で 二つに 結んでいる


髪型に 詳しくないため

名前が あげられない


でも 似合っていた


まるで葬儀に 着込むような

黒いワンピースでなければ

もっと 似合っていたかもしれない


少女は 私を見上げたとたん

にこやかだった 口角を

思いきり 下げた


客にそのような 態度

あまり褒められたものではないが

私も 宿泊しに来たわけではない


おそらく どっちも 無愛想なまま

少しだけ 時間が たった


「ああ、お兄さんはまだ生きてるじゃないの。ここに来るのは早いわ。それとも、なに? あたしに生きてる喜びでも説きにきたわけ? 余計なお世話よ。冷やかしなら帰ってちょうだいな」


細い腰に 両手を あてて

いきなり 帰れとは


死に損ないに なってから

来いという 意味だろうか


ずいぶんと 下品な 宿だ


奇妙な 設定を 客に いる

連れ込み宿かも しれない


私は 丁寧に 一晩 椅子にでも

座らせてほしいと 頼んだ


わざわざ 部屋を 借りるほど

朝寝坊する つもりは ない


朝日とともに 霊園に 戻る


それまでの数時間

草や 羽虫から 逃れる場所が

欲しいだけだ



少女は 値踏みする 猫のような目で

私を よくよく 観察すると

こんな 交渉を 持ち掛けてきた


「そこに座っているお客さんが、当ホテルで落とし物をしたそうなのよ。お兄さん、探してあげてちょうだいな。そしたら、今日の宿泊はタダにしてあげる。どう? いい話でしょ。あたしも、掃除がしやすくなって大助かりだわ」


ホテルというより

冬山の ロッジだった


広くは なさそうな この施設


私は この厄介事やっかいごと

引き受けてみることにした


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