第12話   声は道しるべ

またまた ノイズが ひどくなり


つまみを回して

周波を 合わせようと 試みる


まったく が つかなかった


こういう場合は また私が 移動する


移動しながら つまみを回し

ノイズが消える 方向を探し

声が 再び聴こえてくるまで

歩み続ける



「ある夜、種を持ってきた女が、部屋に入ってきたんだ。もう浮気はしないでくれって言われた」


ようやく 声が入った頃


宿屋 と彫られた 立て看板を 発見した


こんな所に 宿屋が あるとは


視線を 上げてみると

それまで まったく 気づかなかった

影絵のように 真っ黒な

一階建ての 素朴な 建物が

目の前に 建っていた


窓から こぼれる オレンジの灯りが

暖かみと 不自然な幸運を

感じさせる


機械が まばらに 声を

拾い続ける


「女は以前から、俺の子を欲しがっていた。だが、好みじゃなかったから、離れの小屋に置いて、何ヶ月も顔を合わせていなかった」


女性の すすり泣きが 聞こえ始めた


機械は さまざまな 過去を 拾う


ときには 美しい思い出を

そんな日も あったが


今回は 期待しないでおく



機械を 宿の玄関に 向けると

ノイズが消えた


男の声も まばらに 拾えた


この先に

依頼人と つながりのある

何者かの 手がかりが あるだろう


依頼人と つながりのある

何者かの 感情の 残りカス


拾えるものは 愚痴や 未練

それから 自慢話だろうか


それらを 拾って 繋ぎ合わせる

そのために 宿屋へと 赴いた


ついでに 夜が明けるまで

いさせてもらおうと 思う


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