第11話   本当にオレンジだったのか?

ノイズ混じりの 霊の声

機械が拾う 独り言


不平不満や 未練の 残骸

ぶつくさ 文句を垂れている


私は機械を 取り出すと

つまみを回して 周波を 合わせた


愚痴をこぼしてる本体が

この場にいるかは わからない


私は ただ 拾うのみ

拾って つなげて

依頼人に 伝える


それが仕事で

それ以上のことは 手を加えない



つまみを回しながら

ノイズの消えた方向へ 歩みを 進める

草木を掻き分け 進んでゆく


「……な……だしな」


歳を取った 男の声だ


「どうせ、拾った女だしな」


はっきりと 聞こえた

ここだ

立ち止まって

声を 聞き続けることにした


「女が持っていた植物の種を、ここらに植えたんだ。そうしたら、みるみる大きく育っていって、大きなオレンジの木になったんだ。詳しいことはわからねーが、そのオレンジは美味かった。昔、一度だけ食った、異国の味がしたよ。嬉しかったねえ。売れば大儲けできると思ったさ」


自慢話のようだ


その後は 延々と 金の自慢ばかりが続いた


成功体験に 溢れた人間が

こんな所で いつまでも

思いを こびりつかせているのは

なぜだろうか




再びノイズが ひどくなり


つまみを回して

周波を 合わせようと 試みる


あらかた 試みたが

まったく が つかなかった


こういう場合は 私が 移動する


移動しながら つまみを回し

ノイズが消える 方向を探し

声が 再び聴こえてくるまで

歩み続けるのだ



右も左も わからない

そんな時刻に なった頃


踏み分けた 草の 香りが 充満し

見上げた空は 曇っていた


星もなく 月もない


現在地を確認する すべもない


やっぱり明日に すればよかった


なんとか 来た道を 戻れないか

後ろを 振り向いても 無意味だと

わかっていても 期待したい


道しるべが

そこに あることを



まさかの 野宿を 覚悟した

そのとき

機械が やっと 男の声を拾った


「金が入ると、女も大勢寄ってきたよ。横んなってたら、勝手にとなりにやってくるんだ。ここいらは貧しかったからな、男どもは出稼ぎでいねーし」


その後は 延々と

下品な話が 続いた


出稼ぎに出ている 男たちが

気の毒であった


こんな 話を聴くために

さまよい歩かされる この身も

不遇だった


男に オレンジの種を 運んできた 女は

どこに行ったのだろう


こちらから 質問を できないのが

この機械の 難点だった


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