第7話   家を訪ねる

よく手入れされ

まっすぐに育てられた 木々を両脇に


舗装された道が 一本

曲がりくねりながら 先へと導く


道中に建てられた 木製の看板には


『不審者多発』

『野生動物出没注意』

『狂犬病注意』


などなど

長生きを阻害するような文字が つづられている



だが この道は 綺麗に舗装されていた


まるで 空気のおいしい 安全で平和な公園へと

誘いこむかのように


公園には 景色を見下ろせる ベンチが点在していたが

私以外 誰もいなかった

素朴で 平和な公園を 足早に通り過ぎてゆく


道の終わりには 素朴な色の屋根をのせた 小さな家が一軒だけ


煙突から 煙が一筋 ほそぼそと

青空へ 吸い込まれている


木目の目立つ扉から

たぶん若いのだろう 女性が一人

顔を出した


大きな灰色のショールで

頭部を包んでいる


その女性は 遠巻きに私の姿を見つけるなり


少し 警戒したのか

扉の中へと消えてしまった



私の服装は

事情を知らない人からすれば

不審者に見える


ここは警戒されないように

依頼人からの手紙を 片手に


落ち着いた感覚を空けて

扉を叩いた


「はい」


女性の声だった


すぐそこに立っていたらしい 扉が開くのが 早かった


女性は 私を見上げるなり

灰色がかった薄い光彩の両目を

大きく 見開いた


「……どちら様でしょうか」


その返事の 代わりに

私は片手にしていた手紙を

差し出した


女性は その手紙を 受け取ると


それはそれで 驚いた顔をして 私を見上げた


「貴方が、噂の……」


私は こんな辺鄙へんぴな場所でも

噂になっているらしい


どうせ よくない噂だろう


悪い噂のほうが 創作しやすく

いくらでも 生み出せるからだ


特に 私のような職業だと 


生きたまま埋めているとか


墓の下から臓器だけ取り出して 売買している


などなど


子供たちの 怪談に出てくる

悪役となっている


しかし 彼女は

私に手紙を 投函した


少なくとも 会おうと思う程度には

まともに 思われているのだろう


私は 簡単に自己紹介を 済ませた


なぜ 私の頭のことを

彼女が 知っているのか 

すぐにでも 尋ねたかったが


本題に入るのは

依頼人である 彼女のほうだ

ここは 我慢だ


「こんなに早く来てくださるなんて。本当に、ありがとうございます」


彼女は 警戒した態度を取ったことを

謝罪した


こんな所で 暮らしていたのでは

警戒するのも 当たり前だ

私は 気にしていない旨を 伝えた


「ありがとう、お墓守りさん。貴方がこんなにお若い人だったとは、思わなくて。あ、気を悪くさせてしまったかしら」


私が否定すると

彼女は嬉しそうに 続けた


「霊園のお手入れを、一人でされていると聞いていたから、さぞ年季ねんきが入ったベテランさんなんだろうなって、ちょっと緊張していたんですの。ふふ、同世代のようで安心しましたわ」


同世代と言われたが

私のほうが 十年ほど若い気が


案外 本当に

同世代なのかも しれないが


じつは 小さな息子がいる と言われても


納得できてしまうような


人生慣れしている 貫禄かんろくというのを 感じる


「詳しい話は、どうぞ中で。お茶しかありませんが、茶葉の種類なら、豊富なんですのよ」


私も水筒に お茶を入れていた


しかも 山を越えるまでに

一本 飲みきってしまった


もう腹が がぼがぼだ


そして 帰る頃には


このご婦人から


お手洗いを 二回は借りるだろう


ちょっと恥ずかしい


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