第5話 切手が無い
小屋に戻り 一息つく
思いのほか シスターに 心配されて
ちょっと にやついた
自分の口の位置が わからないから
にやつく ほほの位置も
わからない
だが たぶん 私はにやけている
さっそく 手紙の主に 会いに行こうと思い
手紙を 裏返してみると
切手が 貼られていなかった
行動する気力が
急激に 消滅してゆくのを 感じた
だが シスターに 心配させてしまった手前
行くだけ 行ってみようと 思い直した
手紙の 送り主の 住所を確認する
そして 窓から 遠くの山々を 眺めた
あの山を 越えた先にある 公園
この手紙を 届けたヤツは
どれほどの 暇人なのだろう
やっぱり 行かないほうがいいだろうか
これは ただの イタズラなんだろうか
私が何者なのか
そのルーツは 知りたいが
森の中で なぞの暇人に会うのは
さすがに 危険が 伴う
しかし あんなに真剣に話を 聞いてくれた
シスターに
怖いから やめにしたと 知られるのは
今後の 関係性に 亀裂が生じるような
そんな気がした
地図も 持っていく必要があった
公園にすら たどり着けない気がしたから
機械の調子も 確認しておく
名刺程度の 大きさしかない
薄くて頑丈な
しかし内部は 繊細な 歯車だらけ
私は 機械の つまみを回して
作動させた
『……ル……ルビーが……僕の母様の、ル……ビ……』
雑音だらけの中で
少年の 執着心が 拾えた
この霊園に眠る わけありの魂
彼らは いつも 無念に囚われている
今日も 機械の調子は
そこそこ 良好だ
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