第2話   私の頭部について

私が 管理する 霊園には

死者を慰める 者よりも


雰囲気が 良いからと

休憩に訪れる 客が

ほとんどを占める


ちょっとした 穴場の 観光地


弁当を 広げて

枯れた噴水の ふちに 腰掛けて


彼が植えた 数多の 植木の

花付けの良さに 感嘆し


わざわざ

小屋で 身を潜めてやっている

私のもとまで 来て


自分が ぽっくり逝ったら

ここに埋葬されたい

などと言う 冗談とともに


一緒に酒を 飲み交わしたり

飲んだり 食べたり しゃべったり


ただ それだけのことなのに


それが できる自分が 不思議だった


私には 頭部があるという 感覚が

無いのだ


鏡にも 映らない


映っていない と

誤認識している だけかも しれないが


私は 私の 頭部を

見たことが ないのだ




何度か 酒と つまみを

ご馳走してくれた 老人に


思い切って 尋ねてみた


私が どんな顔を しているかを



老人は目を細め

そして ゆっくりと 教えてくれた


この世の いろいろなモノに

たとえながら


そして こうも付け足してくれた


私の顔は

そこまで たいしたものではないと


それを聞いて

卑屈にも 安心してしまった


もしも私が もったいないほどの

美男であったなら


それを認識できずに

小屋に 引きこもっている

私自身のことが


もっと つまらないヤツだと


自覚しながら 生きてゆく羽目に

なっていたかも しれない


いや 絶対 そうなっていた


普通の顔で よかった




霊園のとなりに 教会がある


べつに 不自然なことでは

無いのだが


この霊園の 景色の 一部として

となりの 屋根の茶色が

とても よく馴染んでいる


おそらく 霊園と教会の

どちらか 片方が


撤去されて しまったら


きっと 互いの管理者が

無言で それを 惜しむだろう


それぐらい 馴染んでいた






彼女が教会の 責任者というわけでは

ないと言われたが


シスターが 一人だけで

管理している ように見える


ステンドグラスの 楽園は

なんだか うちの管理する 霊園に

似ている


先代の 墓守りが

つまり 彼が

似せたんだろうか


たまたま 似ている

という言い訳は


通用しない程度には 似ていた


噴水の 位置とか 特に


そこで お弁当を広げて 食べている 老人まで


そっくりだった


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