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 パソコンの画面には、会議に参加している4、5人の顔が並んでいた。誰もがつまらなそうな無表情で、各自のカメラ位置や見栄えを確認するために視線だけをあちこちに泳がせていた。

 「皆さんおはようございます。おそろいのようなので定例の部長会をはじめます」

 進行役である事業管理部長のタナカがあいさつすると、聞き取りにくいうなり声のような、覇気のないあいさつが各メンバーからワラワラと返ってきた。

 「ウイルスがこの先どうなるのか、なかなか見通しがたちませんが、皆さんもう在宅勤務は定着してきましたか?」

 タナカはまずは場を和ませようと前ふりを投げかけた。しかし誰からも気の利いた反応は得られなかったため、仕方なく個別に尋ねることにした。

 「スズキさんどうですか?スズキさんのところは父子家庭だから特に大変じゃないですか?」

 ユウジはあまり個人的なことを話すのは好きではなかった。それでも鬱積したストレスのためか、思わず口を開いた。

 「いやぁ、もう本当に大変ですよ。学校も休校が続いていて再開のめどがたたないから、朝から晩まで四六時中子供と一緒ですからね」

 ユウジはハッとしてケンに目を向けた。ケンはなにをするということもなく、まだ向かいに座っていたのだ。つい本音を出してしまったユウジは慌てて言葉をつけたした。

 「もちろん親子で一緒に過ごす時間は貴重ですから、逆にロックダウンのおかげで、本当によかったとは思うんですけどね。まあそっちの方が大事かな。そりゃそうですよね。本音を言うとね」

 ユウジはもう一度ケンを見た。ケンは腕の虫刺されの跡を爪で十の字につぶすのに夢中で、ユウジの視線には気がついてすらいないようだった。

 「スズキさんのところいくつになったんでしたっけ?」

 営業部長のヤマシタが割って入ってきた。

 「うちは小学五年になったんですよ」

 「もう五年生か!早いですね」

 「そうなんですよ。もう本当にあっという間。宿題も結構あるんですけど、意外ともう難しくって、なかなかみてやれないくらいですよ」

 「スズキさんのところは人気のある進学校だから、なおさら競争が大変でしょ?」

 「そうそう!この界隈はみんな教育熱心でね。小さい時から塾とか習い事とかいって、少しでも成績を良くしようと躍起になってて…」

 「そりゃ大変だ」

 「自分が小学生のときなんて勉強なんかした記憶もないけどなぁ。あ、『だから今そんなんなんだ』とか言わないでくださいよ?ははは。とにかく子供っていうのはね、遊びの中で学ぶことがたくさんあると思うんですよね」

 「時代だよ時代。そんなこと言ってるとPTAからつまはじきにされて、子供もいじめにあって…。そんな時代ですよ」

 年代的にみな近かったためか、誰もがやけに納得したようにしばらく沈黙が続いた。

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