ミスターPの襲来

第1話 名前の由来


 生徒会長から依頼を受けて、2週間が過ぎた。


「あのぉ、私は一体何をしてるんですかね?」

「ただ歩いているだけだな」

「こんなことをするだけで、あの男の子を見つけることが出来るんですか?」

「ああ、もちろん。俺の直感は正しい」


 私は今、街を散歩していた。何か特別なことはしていない。学校が終わってから放課後、1時間程度の散歩をする。これを3日繰り返している。


 米澤先輩はというと、あたりをきょろきょろと見渡しながら後ろをついてくるだけだ。


「あ、そうだな。スカート短くしろ」

「えっ!ちょっ、はぁ!?セクハラですか!部長に言いつけますよ!」

「部長、新人のスカート短くしていいですか?……ええ。やっぱりガードが緩いほうが。……はい。…………ありがとうございまーす。――部長から許可は取ったぞ」

「そういう問題じゃないです!」


 一体この人は何を考えているのだろうか。私はあっかんべーと舌を出してから走り出した。


「おい、どこに――」

「うっさい死ね!」

「お下品だこと」


 私は米澤先輩を置いて家に帰ることにした。


 しばらく走って、住宅街の十字路を右へ左へ曲がっていく。


 ふと、後ろを振り返るが、米澤先輩はいない。追ってはこなかったようだ。


「……まったく」


 天才をスカウトするとは言っていたものの、あの先輩は私に何をさせていたのだろう。ただ歩くだけに何の意味があるのか。


「帰るか」


 スマホで時計を確認すると、時刻は18時になるところだ。


 今まで無駄な時間を過ごした……。


 私は辺りを見渡す。


 帰ろうと思ったが、ここがどこだか分からない。というのも、知才学園は前の学校とは反対の方向にあるため、土地勘が全くと言っていいほどにない。つまるところ、私は道に迷った。


――しかし、


「文明の利器に頼る!」


 スマホのセキュリティロックを解除すると、GPSを起動して地図アプリを開いた。このアプリを頼れば家に帰ることが出来る。


 自宅の住所を入力して、案内通りに道を進めば無問題。どうやらまずは後ろ――南へ向かうようだ。


 そう思って振り返った瞬間、事件は起きた。


「きゃあああああああああ!!!!!!」


     *


「で、恥ずかしさのあまり、敗北してきたわけね」

「ほんとっ、恥ずかしかったんですよ!米澤先輩は役に立たないし!」

「それはいつものことだ。心配しなくていい」

「役に立たないんだったら、どうしてペアを組ませたんですか!」

「たしかに、アイツは本当に役に立たない。本ッ当に役に立たない。新人に付かせてしまい申し訳ないな。あぁ、本当に使えないな」

「あの、ここに本人いるんですケド。すんごく傷ついてますよ。泣いちゃいますよ?」

「私が悲鳴上げたのに、助けにも来てくれないんですよ?」

「すまなかったな、柊。わたしがアイツの育て方を間違えたのかもしれない。母親……失格だッ!」


 部長は机に拳を叩き付けて俯く。


「どうして部長に母親面されなきゃならんのですかね」

「ははっ……さて、茶番はトニカク、調査はご苦労様だった。スカウト部活動で史上最強の天才だな」

「ほんと最強で最悪な天才ですね。なんなんですか『パンチラの天才』って」


 生徒会からの依頼、それは、学園付近に現れるパンチラ男の被害を止めろというものだった。『パンチラの天才』と名付けられた男は質(たち)の悪いことに、犯罪を犯しているわけではないのだ。被害者に当時の様子を聞くと、風が強く吹いたがためにパンチラが起きた、転んでしまってパンチラしてしまった、犬にスカートを引っ張られてパンチラしてしまった――つまり、自然的要因によってパンチラを見られる「事故」と処理されてもおかしない状況に起きてしまうのだ。


――まさに、『パンチラの(目撃する)天才』


――女の敵!


 生徒会はこの問題に立ち向かったのだが、あっさりと撃沈したそうだ。会長からもらった資料には敗北の一言が添えられていた。だからこその「スパッツ」なのだろう。パンチラに対抗する唯一の武器。けれど、その答えを導き出しての敗北には納得がいかない。スカウト部に依頼してきたのだから、何か裏がありそうだと部長は少し警戒している。


「それにしても、学園内の事件解決だと思ったんですけどねぇ。まさか学園外の事件すら任されるとは思いませんでしたよ」

「学園が大きければ、伴って周辺地域へ少なからず影響を及ぼす。この学園の生徒が問題を起こしても、地域貢献によって、学園内へのヘイトは下げられるわけだ」

「つまり、どういうことですか?私頭が悪いんで分からないんですけど」

「つまり、善因善果というわけだ」

「ぜんいん……?」

「柊ちゃん、後で勉強教えてあげるね」


 鷲宮先輩がたっぷりの笑顔を私に向けた。なんか怖いなー。


「さて、柊のおバカも露呈したところで、今日はお開きにしようか。明日は部の全員でパンチラ男を捕まえるとしよう」

「部長、それじゃあ男がパンチラしてるような言い草ですよ」


 市ノ瀬先輩が苦笑いする。


「それもそうだな。それでは、【ミスターP】と名付けよう」


 部長のネーミングセンスが皆無。全員苦笑いだ。……いや、米澤先輩だけは必死に笑いを堪えている。


 【パンチラの(見る)天才】通称【ミスターP】という名前が決まったところで、部長の宣言通りに今日は解散となった。

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