第3話 正体不明の部活


 放課後、宣言通りに米澤先輩は私の教室にやって来た。


「誰、あの先輩?」

「誰かの彼氏じゃない?」

「うっそ、先輩彼氏って憧れるわ~」


 女子たちによるひそひそ話が聞こえて来た為に、とても言い出しづらくなってしまった。転校早々悪目立ちなんてしたくない。仕方がなく窓の方を向いて何とかやり過ごそうとする。


 一番前の席だし、見つかってしまうだろうけど。


 しかし、予想に反して米澤先輩は「帰ったのかぁ?」と呟いてすぐにどこかへ行ってしまった。ふっ、とひと息ついて席を立つ。これから米澤先輩を探すはめになってしまった。


 決して私が悪いのではない。あの先輩が悪いのだ。


 しかし、どうしたものか。今日、初めてここに来たのに人を探しをするなんて、私が迷子になってしまう。クラスの子に協力してみようかな。でも、初日でそこまで仲良くはなってないしなぁ。


 とりあえず教室を出て、左右を見渡す。あの先輩は居るわけがない。


 その後、ぐるぐると校舎内を探しまわったのだが見つからない。なんだかんだで、中庭に到着した。ため息を吐いて近くのベンチに腰を下ろす。


 一体どこにいるのだろう。人に聞いても都合よくあの先輩を知ってる人などいるのだろうか。


 けれど、物は試しだ。一つ隣に座っている、読書中の女子生徒にでも話を聞いてみるか。


「すみません」

「……何かしら」


 私が声を掛けると、女子生徒はぎろりと私のことを睨めつけた。襟元に目を遣ると、Ⅲと刻印したバッジをつけていた。


 げっ、3年生か。話しづらいな。しかも、2年生のことなんて知ってるわけないじゃん。


 聞いてみるけど。


「米澤先輩って知ってたりします?」

「……下の名前は?」

「たしか、定家さんだったはずです。2年生なんですけど」

「…………」


 3年生の先輩は、ぱたんと本を閉じると急に立ち上がった。


「付いてきなさい」

「えっ」


 私が動揺しているのを気にせず、先輩は歩き始めた。それに慌てて後ろに付いて行く。


 先輩が歩く姿は魅力的で、まるでモデルさんのようだった。長い黒髪がふわりと揺れる度に、私の心臓もトクンと脈打つ。つい見惚れてしまう。


「ところで、貴女の名前は?」

「――ふぁ、はい。柊美琴って言います」

「柊……成る程。だからあの犬に、ね」

「……はい?」

「何でもないわ。……到着したわよ」


 先輩は木製の扉の前で立ち止まった。たどり着いたのは学部棟の隅。たしか、部活の部室は部室棟という棟にすべて纏められていると先生に聞いた記憶があったのだが、事情があるのだろうか。


「ここに米澤先輩がいるんですか?」

「多分、いるわ」

「多分ですか」

「安心しなさい。私の直感は7割当たるわ」

「へ?それはどういう……」

「ふっ、とにかく中に入りなさい」


 先輩は扉をゆっくりと開けて、私に先に入る様に促した。


「失礼します」


 扉の先には1つの大きなテーブルが置かれていて、周りにパイプ椅子が4つ。豪華で座ったらふかふかそうな椅子が1つ置いてあった。


 そして、窓の外を黄昏ているように見つめる、1人の男子生徒が立ってた。


「……米澤先輩ですか?」

「ん……、ってあんた!てっきり帰ったのかと思ったじゃないか!」

「すみません」


 なんで私が謝ってんだ……。


「おい、犬。この子がスカウト部うちの入部希望者か?」

「えっ」


 希望はしてないんですけど。


「はい。知才学園スカウトついでに、ですけど」

「えっ」


 ついでなの?


「了解した。お前のスカウト部への入部を許可しよう」

「――ええええええええーーーっ!!!」


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