第2話 主人公は教卓の前に座らない


「どうも、ひいらぎ琴音ことねです。よろしく願いします」


 私が頭を下げると、クラス全体から拍手喝采を浴びた。


 そう。この通り、私は知才学園へ転校していた。


 あの後、あの少年の言う通り自宅に知才学園から封筒が届いていた。中身を空ければ転入手続きについての書類が入っていたのだ。両親は驚き泣いて喜んだ。


 一方の私はそこまで嬉しくは無かった。1か月間で作り上げた地位を放棄しなければならないのだ。イケメンの先輩にも告白されていない。


 まぁ、名残惜しいと感じながらも、知才学園に転入したのだが。


「席は一番前ね」

「はい、分かりました」


 先生に促され、教卓の前の席に座る。


 転校生が教卓の前とかどうなってんだよ!


 休み時間はある程度予想はしていたけれど、女子の集団による質問攻めの被害を受けていた。昼休みになればだいぶ落ち着いて、トイレに行けるぐらいにはなった。


 席を立って教室を出るとそこで呼び止められた。


「よっ」

「あ、あなたは……」


 振り返ると、男子生徒が立っていた。しかも顔見知り。襲われた時に助けてくれた自称スカウトマンだ。


 ふと、襟元を見ると、Ⅱという刻印のついたバッジがついていた。知才学園は襟元のバッジで学年が分かる様になっていた。つまり、この先輩は2年生だったのだ。


「どうだ、この学校は?」

「思っていたより普通ですね」

「まあ、天才が集まるって言っても学校は学校だからな。……あ、そうだ。あんたに用事があったんだよ」

「は、はぁ」

「うちの部活に入らない?」

「部活?」


 入ってもみたいなとは思うけれど、知才学園はたくさんの天才が集まっている。部活に入ったとしても自分が活躍できるとは到底思えない。


「強要はしないさ」

「いったい、何部なんですか?」

「……スカウト部だ」


 彼はしたり顔でそう言った。一方の私は、神妙な面持ちで質問する。


「何ですかその部?」

「一度説明したはずだぞ」

「そんなはず――」


 と言いかけたところで、あの時スカウトがどうやらと言っていたことを思い出した。あの時は仕事と言ってたが、部活としての活動だったようだ。


 私のはっとした顔で、思いだしたことを理解したようだ。彼は話を続ける。


「その通り。あんたをスカウトしたのはこのオレだ。で、オレはまたあんたのことをスカウトしに来た」

「つまりは、部活の勧誘ですよね」

「スカウトだ」

「いや、ほぼ同じ意味ですよね」

「知らん!」

「まあいいですよ」

「よしきた。それじゃあ放課後に迎えに来るからな」


 そう言って先輩は回れ右をした。


「ちょっと待ってください」

「ん?」

「名前を知りたいんですけど」


 ようやく彼の名前を聞くことができた。


「ああ、そういえば言って無かったな。オレの名前は米澤よねざわ定家さだいえだ。よろしくな」


 そう言って米澤先輩は手を突き出す。握手を求めているようだ。


「私は柊琴音って言います」


 もちろん、握手に応じる。


「オレはあんたの名前を知ってたんだけどな」

「知ってて私のことをあんたとか言ってたんですか」

「まあな。いいじゃねえかそんなこと」

 にっと笑って、今度こそ先輩は走り去って行った。

「……あの人忙しいのかな?」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る