終わりなき結末の法則

 本の森には、ときどき〈セカイ〉の欠片が落ちている。一見するとキラキラ輝く綺麗な〈ビーダマ〉だが、その中には大抵、美しさとは無縁の血なまぐさい〝閉じられた結末〟が詰まっている。

 そんなものを好んで集めているのは、ワシら〈ショーチョー〉くらいのものだ。他のセカイに影響が出ないように、なんて目的も、あるにはある。案内役である〈シシャ〉たちは、セカイ探しは得意でもビーダマ探しの腕は酷いものだから、多少面倒でも〈セカイ図書館〉内の巡回は欠かせない。

 けれど、今回のそれは珍しくシシャが見つけていた。


「探してるときは見つからないくせに、他のことをしてると見つけちゃうのって、どうしてなんだろうねぇ」

「それは〝物探し〟が古くから持つ法則ルールだから、仕方なかろうて」


 セカイの欠片ビーダマを手のひらで転がしながら、ほんとにねぇ、と大多福次おおたふくじが溜め息をついた。

 ワシは3つほど翼を振るい、彼の肩へと飛び移ってのぞき込む。内包された色合いは、ほんのり〝哀しみの藍〟を帯びた〝諦めの灰〟。

 念入りに赤系が混じっていないことを確認してから、「見ていくかい?」と福次を誘う。


「俺はいい。和白わしろだけで不幸を楽しみなよ」

「なにやら失礼な物言いだねぇ、〝おたふく〟」

「はっ! なんとでも言え、〝ワシロウ〟が」


 お約束の軽口をほんのり叩きあったところで、今度はワシが溜め息をもらす番だった。

 セカイにてられた全部が全部、不幸なわけじゃない。少なくとも、当人たちが望んで切り離されたケースだってたくさんある。誰もが〝幸せ〟と認める結末なんてもののほうが、実際は稀少で少数派マイノリティーであるし、そもそも、そういったものはセカイに棄てられたりしない。

 ――いや、少し冷静になろう。言いたいことがグルグルして頭をさかさにしてしまうようなときは、羽の手入れをするに限る。

 福次のほうもワシの癖を心得ているから、とくにかすでもなく黙って肩を貸していてくれる。小さく「ごめん」と聞こえたのも、気のせいではないだろう。


「そういや、〈ビーダマ〉ってのはどうしてセカイから出てくるんだ? 俺たち〈シシャ〉が直接干渉かきかえできないことと何か関係あるとか?」

「なかなか察しがよくなってきたじゃないか。さすがは例外的存在イレギュラー


 譲渡じょうとによって後天的に生まれた、初めての〈シシャ〉。元は〈ナナシ〉――セカイ側の人間だったからか、通常のシシャと異なりセカイ〝鑑賞〟ができる。立場上、セカイに直接入ることはできなくとも、ワシと感覚を共有して間接的に入ることはできる、という具合だ。

 では、相手がビーダマであればどうなのか? もしかすると、法則ルールに縛られず直接干渉すらできるかもしれない。むしろ、そうであればいいと、ワシは願っている。……きっと、仮初めの〝幸せ〟に封じられた彼らも浮かばれることだろう。


「セカイには意思がある。シシャができるのは、セカイ同士の過干渉を防ぐための〝整頓〟、および〈はぐれワタリ〉を送り込んでセカイの活性化をはかる保守・管理のみ。それは、セカイ自身が〝不要な結末〟を結晶化してつゆ払いできるからなんだ」

「……それがビーダマ?」

「ホロッホー! ご名答だよ」


 決して割れることなく、永遠に繰り返される〝終わりなき結末〟を内包する。それがビーダマの正体。


「さっきも言った通り、福次は非正規のシシャイレギュラーだから、君になら割れるんじゃないかとワシは期待してるんだよ」


 やってみてくれないか。思い切って提案すると、色よい答えが返ってきた。

 どうか、君が彼らを救う〈法則を破りし者ルールブレイカー〉となりますように。



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終わりなき結末の法則

〔2019.03.20作〕

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★カクヨム3周年記念選手権⑤「ルール」参加作


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