シシャと師匠とショーチョーと
俺は
主だった仕事は、本の形で存在する〈セカイ〉たちの保守・管理。直接干渉は禁忌事項だけど、〈ショーチョー〉を介しての間接干渉――もとい、鑑賞するのは自由だ。
「こちら、シシャ・福次。そっちはどうだい、ショーチョーさん?」
『うん、悪くないな。空飛ぶ怪物の居るセカイではあるがね。視覚シンクロするかい?』
「……今、ぜったい飛んでるだろ〝ワシロウ〟」
『はっはっはっは! ワシをなんだと思ってる、〝おたふく〟が』
「はいはい。
高所への恐怖心はない。ただ、すこぉーしばかり酔いやすいだけだ。
少しでも慣れようと思って、巨大化した和白の背に乗ってたまに飛んでもらっているのだが、成果といえば、途中で落ちなくなったことくらい。そして降りたあとは、長いこと木目の床との仲を深める。親密度を可視化したなら、恋人どころか結婚してるんじゃないだろうか。
「〈
「君という奴はまた――」
言いかけて諦めたのか、「了解。またあとで」と和白が連絡を断った。
俺は所詮、代替品に過ぎない。分身となる〈ショーチョー〉を生み出せず、先代から譲り受けなければ〈シシャ〉にはなれなかった落ちこぼれだ。〝永遠の二番手〟。響きこそ
あまり卑下するなと和白は言うけれど、今でもときどき寝言で先代の名を呼んでいるのを知っている。俺だって、あの日のことをたまに夢に見る。
『焦がれることに、
先代の〈シシャ〉――師匠は、いつもそう嘆いていた。本来なら共に消えてしまう和白を、〈シシャ〉の任ごと俺に継承させることで残し、自身の世界に幕を引いた。
追う背中を失った弟子が、腐らずに済むものか。
それでも俺が〝俺〟として今もこうして在るのは、形見とも言える置き土産の和白が居たからだ。迷うときには親のように導き、悩むときには友のように寄り添い接してくれる。師匠も和白も
「……〝ワシロウ〟」
『なんだ〝おたふく〟。ワシが恋しくなったか?』
俺の小さな呟きを、和白が耳ざとく拾う。皮肉めいた軽口も、長く相棒を続けていれば心地よく聞こえるのだから不思議だ。
「やっぱりシンクロしてみようかなと思ってさ」
『ホロッホー! いつでも歓迎だよ。酔ったらすぐに言ってくれ。宙返りを
「冗談は
まだまだ不甲斐ない二代目〈シシャ〉だけど、これからもよろしくな。相棒さんよ。
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シシャと師匠とショーチョーと
〔2019.03.13作〕
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