セカイ図書館~断片集~
あずま八重
本の森へようこそ
吾輩は鳥である。名は有るが、好きではないので伏せさせていただく。とはいえ呼称が無いのは不便であろうからして、単純かつ安直ではあるが、仮に〈トリ〉と呼んでくれたまえ。
書き出しこそ、とあるセカイで有名な作品を真似たが、この〈トリ〉めが普段使いしている一人称は「ワシ」である。我が森の担当となった〈シシャ〉に大笑いされて「ワタシ」に変えようとしたものの、似合わないとまた笑われたために元の鞘、だ。
さて。ワシについてはここらで切り上げて、此処の話をするとしよう。
此処は〈セカイ図書館〉。あらゆるセカイを〈本〉として蔵書している場所で、ワシは「本の森」と呼んでいる。
類似セカイは同じ書架に収められているため、まれにセカイ線を跨ぐ〈ワタリ〉が出る。そのままそのセカイに馴染めれば、なんら問題はない。けれど、
見た目はビーダマ。
最近は、どこかのセカイで概念が確立してしまったらしく、
「おーい、ワシロウ! ちょっといいか?」
「ええい! その名でワシを呼ぶなと言っとるだろうが、おたふく!」
「お前こそ、その呼び方やめてくれよ。俺は
毎度飽きずに同じやり取りを繰り返しながら、
「君は〈トリ〉と呼んでくれ。はぐれワタリ君。――して、シシャ殿。案内は済んでいるのかな?」
「もちろん。あとは
いい加減でナヨナヨした性格のわりに、福次の仕事は早いから感心する。まぁ、そうでなければ〈シシャ〉は
福次が本を広げ持つ。そこに〈はぐれワタリ〉の手を乗せるよう指示を出し、
「それじゃあ、中での案内よろしくね。くれぐれも、食事に夢中になったり寝過ごして彼を見失わないように」
「……過ぎたことをもう言うな。ワシだって、そういつもいつも同じ失敗などしないわ。それより、不在の間にビーダマを見つけたら回収しておくのだぞ?」
「へーい、へい。お土産話も楽しみにしてるよ」
福次の軽い返事を最後に、ワシも〈セカイ〉へ落ちる。図書館を離れられない〈シシャ〉に代わり異世界探訪するのも仕事の一環であり、また楽しみの1つである。
最後に。いつか〈はぐれワタリ〉になるかもしれない貴方に1つだけ伝えておこう。
『貴方がなれるのはその〈セカイ〉の主人公であって、決して〈
――それでは、お会いせずに済むよう願っております。
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〔2019.03.10作〕
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★カクヨム3周年記念選手権①「切り札はフクロウ」参加作
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