第51話 やっと王都に戻れました。
私が王都に戻って来たのは1年半近く掛かった14歳の春でした。
最初に落ちた10人と援軍の25人で帰れる訳もなく、ヴォワザン家お抱えの冒険者やグラッテ一族などの支援で何とかダンジョン攻略の総勢150人のチームができた訳です。
グラッテ一族はベテランを投入してくれたそうですが、とにかくダンジョンが広い。
元々3~5個のダンジョンが1つに統合された複合型ダンジョン、地下都市と言っても過言でないほど広かった。
王都に戻ったヴァルテルからトーマに指揮が引き継がれると人海戦術に切り替えた。
領軍から精鋭50人を選抜し、さらに冒険者学校を卒業した熱狂的なエリザベート狂で構成される南方交易所に所属する冒険者『薔薇団(ロサスミーレス)』から精鋭300人を追加で徴用し、翌年には卒業生と在学の優秀者の150人もかき集めます。
いくら熱狂的なエリザベート狂と言っても根性だけです。
そこで私が提唱していた魔法銃によるパワーリングで即席のレベルアップとダンジョン入口に作った砦で鍛え直して、その後にパラシュート部隊で薔薇団(ロサスミーレス)の精鋭200人を降ろしてくれた。
トーマも無茶する。
ドワーフの鍛冶師が降りてきたのでミスリルの武器が使えるようになった。
山を砦に改造して環境も改善された。
そこを拠点に探索が始まると、ダンジョン脱出は時間の問題となってきた。
ダンジョン下層の調査隊も降りてきた。
さらに秋には、追加の薔薇団(ロサスミーレス)が加われると、砦はレベルアップの演習場のようだった。
年が明けた1年4ヶ月ぶりに私は脱出できた。
「ユーア、エリザベート」(エリザベート様、万歳)
「ユーア、エリザベート」(エリザベート様、万歳)
「ユーア、エリザベート」(エリザベート様、万歳)
私の方こそ『ありがとう』だよ。
◇◇◇
「面よ、上げよ」
「エリザベート、よく無事に戻ってきた」
「御心配をおかけして申し訳ございませんでした」
王都に帰国すると王との謁見が待っていた。
風土病を患っていたと公表していたが、大々的な軍事行動をとってバレない訳もない。
父上は内々で宰相から国王に事情を知らせていた。
査察官も来たようだが魔の森の厳しさにすぐ引き返したと言う。
私が無事に帰ってきたことが不思議だったようだ。
しかし、ダンジョンの底で手にいれたミスリルを奉納すると、すぐに謁見するようにと呼び出されたのだ。
「つまり、その中ボスを倒すとミスリルが手に入る訳だな!」
「はい、そういうことになります。我らも脱出を目的としており、大量のミスリルを持ち帰ることはできませんでしたが、わずかですが持ち帰ってきました」
まったくの嘘だ。
10日ごとに復活するミスリルゴーレムを倒し、5トン以上もミスリルを手に入れた。
現地でドワーフの鍛冶師がミスリル製の武器と装備を作ったのでダンジョン攻略も楽になった。
王に奉納したのは、わずか20kgのミスリルであった。
「よく判った。騎士団を授ける。そなたが道案内をしてミスリルを取って参れ!」
「えっ、ミスリルですか?」
「国王様、お待ち下さい。姉様は疲れております」
「エリザベート・ファン・ヴォワザン。アンドラ・ファン・ヴォワザン。王よりの勅命である」
「王命、謹んで承ります」
「承知しました」
まさか、王都に帰ってきた翌日にダンジョンに引き返すことになるとは思わなかった。
もちろん、グラッテ一族の手を借りる訳にもいなかい。
冒険者は解散していた。
領軍は2月の魔物狩りに参加が決まっている。
つまり、残るのは私兵である薔薇団(ロサスミーレス)だけだった。
私は再度ダンジョン攻略の為に早馬を走らせた。
幸い1年近い苦労に報いて、砦で慰労させていたので助かった。
解散させていたら、もう一度集めるのに大変だ。
ラッキーだったよ!
◇◇◇
王が貸し出してくれた騎士団は第2騎士団から第10騎士団の新人達であった。
第8騎士団の副団長が指揮を取り、各騎士団から100人隊長と副官2名と新人30名ずつを集めた混成の300人だ。
私もアンドラも14歳だ。
護衛の任務に就く、薔薇団(ロサスミーレス)は13~18歳くらいの少年・少女で構成される。
騎士団には呆れられた。
「安心しろ! 我が騎士団が君達をお守りする」
「よろしく、お願いします」
「ははは、任せない」
貴族学園や騎士・魔法学園を卒業したエリートですから、いい所見せたかったのでしょう。
でも、ダンジョンに到着するまでが一苦労だ。
騎士団のレベル25くらい。
副団長や100人隊長は余裕だが、団員は魔物に討伐に怪我人が出た。
対魔物戦の経験不足で役に立たない。
ダンジョンに到着するまでに時間が掛かるとは思っていなかった。
さて、ダンジョン入口に建てた砦に250人を残し、50人を選抜してダンジョンに挑んだ。
砦に残された団員が往復3ヶ月に及ぶダンジョン攻略を終えて帰ってくると、余程、魔物との戦いが恐ろしく、プライドもズタズタに引きちぎられて、半数の団員が死んだ魚のような目になっていた。
そりゃ、最年少10歳の子供より役に立たない現実を突きつけられるとそうなるか?
ダンジョンに挑んだ50人に見たようなものだった。
『騎士団の名誉に賭けて先に行かせて頂く』
第8騎士団の副団長は結果が判り切っていたが敢えて止めなかった。
2~3層までは何とか先行できたが、4層を超えるとレベル30を超える魔物が徘徊する。
レベルで負けて、数で負けるようになると対処できなくなった。
そこから薔薇団(ロサスミーレス)に戦場を譲る。
「兄ちゃんら、弱っちな!」
「お兄さんをお守りします」
「僕もがんばる」
「みんな、おにいさんを守るぞ」
「うおぉぉ~う」
13~14歳くらいの少年・少女にそんなことを言われて、貴族学園や騎士学校を上位で卒業した彼らが傷つかない訳もなかった。
途中で死んで貰うと困るのだ。
面倒だがレベル上げをしながら進みましたよ。
レベルが30を超えると、ちょっとは自信を取り戻してくれた。
よかった、よかった。
最後のミスリルゴーレムも50人の総力戦で倒して貰い、完全に復活だ。
その頃にはみんな仲良しです。
往復2ヶ月のつもりが3ヶ月も掛かり、王都に戻ったのは6月になったのは予想外でしたけどね!
ミスリル100kgを受け取った王は大変喜んで頂きました。
◇◇◇
私はレベル40に達した時に『鑑定』というスキルが発現した。
凄くレアなスキルだ。
鑑定は名前とレベル、種族、スキル、称号を覗くことができる。
鑑定レベルが上がれば、ステータスなども見えるようになるのだろうか?
先にお楽しみという所だ。
私のレベルは44です。
アンドラは46と差が開いた。
糞ぉ!
ダンジョンでは割と戦闘に参加したのに追い付かなかった。
レベル35前後の魔物の経験値では中々追い付けない。
10層から下層に挑戦していた者はレベル50を超えている。
私らの従者と侍女のレベル50前後で次期ヴァルテルを争っている。
交代で何度も下層に挑んでいた。
私のお気に入りの侍女メルルだけは40だ。
メルルは別枠だ!
ところでメルルのスキル『
城壁の上位スキルかな。
意識できれば、最強の盾役になりそうなのに勿体ない。
まぁ、メルルだからね。
ミスリルの奉納を終えて、やっと学園の準備ができると思ったら騎士団に呼び出された。
呼び出したのは、騎士団長レオ・ファン・セーチェー前侯爵。
テレーズのおじいちゃんだ。
到着すると模擬戦を強制された。
「なるほど、確かに強い」
ボロ負けだ。
騎士団長レオはレベル52で私より遥かに強かった。
突出して一人だけ強い。
他の団長・副団長でもレベル40~45くらいだ。
第1騎士団の副団長にも負けました。
「ふん、所詮は女・子供のお遊びだ」
対人戦は専門外だよ。
ヴァルテルに虐められて、受けだけはそれなりに巧くなったけどさ!
攻撃は魔法が主体だ。
魔法なしの剣技戦、防戦一方で負け判定を出された。
やたらと第1騎士団の副団長の敵視が痛い。
聞いてみるとオリバー王子の師範役であり、ラーコーツィ家のカロリナ令嬢を信奉しているとか。
滅茶苦茶に迷惑な奴だった。
魔法がメインの私やアンドラに剣で勝って自慢にならないでしょう。
そりゃ、魔刃も使えるようになりましたよ。
でも、使えるというだけで使い熟してないし、使い熟すつもりもない。
アースピックより強力だから、バインドで拘束してとどめを刺すのに使っているだけだ。
「エリザベート様の本分は指揮であります。剣の技術など些細なことです」
「ふん、冒険者風情を指揮できるだけで何を言うか?」
「見聞すれば、一目瞭然です」
「その小娘に籠絡されたか!」
「騎士の名誉に賭けて、そんなことはございません」
「どうだか!」
終わった後の懇親会。
ダンジョンで一緒だった第8騎士団の副団長と第1騎士団の副団長が言い争った。
救国の英雄であるカロリナ令嬢と私を比べるのを止めてくれるかな?
私は軍の指揮なんて興味はないのよ。
「ならば、次の魔物狩りで優劣を決しよう!」
騎士団長レオが余計なことを言ったので、7月の魔物狩りに強制参加が決まった。
もちろん、薔薇団(ロサスミーレス)を呼ぶつもりはない。
いい加減に迷惑だろう。
屋敷にいる10人と冒険ギルドから100人の冒険者を募って参陣した。
騎士団の魔物狩りは東領や中央領の森が定番だったが、昨年の戦争で騎士団の弱体化が露呈した。
早急に立て直しが必要になった騎士団は魔の森への遠征が再開されたと言う。
アール王国の魔の森の遠征は東門を開けて進む。
東領の東には高い山脈があるが、一部だけ通過できる所があった。
王国はそこに東門という大きな壁を築いて魔物の侵入を防いでいたが、30年前から遠征は潰えていた。
もっとも個人的には門を開いて、魔物の討伐を行っていたらしい。
そうだ!
若い頃の騎士団長レオは手勢を連れて、東門を開いてレベル上げに勤しんだ。
セーチェー家が武勇に優れているのは、そういう理由なのだろう。
第2回の魔物狩りは第1騎士団から第5騎士団が参加する。
第8騎士団の副団長と100人隊長は残念がったが、第2~5騎士団の100人隊長や一緒にダンジョンに潜った騎士が喜んでくれた。
レベル低い冒険者を使っても十分な戦果を上げてやった。
対魔物戦のエキスパートを舐める!
私が勝ったのに第1騎士団の騎士とは溝が深まるばかりだ。
「あのような戦い方は騎士道に反する」
知らないよ。
魔物相手に騎士道と関係ないだろう。
でも、1つだけ気になったことがある。
どうして私が騎士団に入隊することになっているのよ。
「それだけ剣が振れて、騎士団に入らぬ意味がない」
「私は入るつもりなんてありませんよ」
「はっははは、隠さんでよい」
どうして私が照れ隠しする必要があるのよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます