第50話 魔の森のダンジョン攻略。

ミスリルゴーレム!?

ストーンサークルから現れたのは身丈5メートルもある白銀のように美しいゴーレムであった。

そうだ!

銀の輝きと鋼をしのぐ強さを持つミルリル鉱石で出来ているゴーレムだ。


ズバーン!

魔法袋から取り出した魔法銃で撃ち抜くも、魔鉄鋼の弾丸でも貫くことができない。

魔鉄鋼より硬い。

つまり、私やアンドラの魔法攻撃では傷も付かない。


皆が必殺の剣や槍を持って魔力を注ぐ。


『アース・ルート』(土の泥)


足元を緩めて、体勢が崩れた所に一斉に襲い掛かる。

よく使う『はめ殺し』の攻撃であった。

完全に決まったが止めとはいかない。

わずかにダメージが通った程度だ。

怒ったゴーレムが腕を振る。


「メルル、止めなさい」

「ぎゃあぁぁぁ、無理です」


そう言いながらも一撃を受け止めた。

でも、ヤバいな!

メルルの盾が壊れた。


「半数が牽制、残る半数で右膝を狙います。アンドラは攻撃の指揮を!」


私らはミスリルゴーレムに攻撃を掛ける振りをして注意を退く。

逃げる瞬間に『アース・バインド』(土の拘束)で動きを止め、アンドラの合図で右膝を狙った。

五回繰り返して、やっと粉砕に成功する。

後はちまちまと壊してゆく。


このミスリルゴーレムは倒せる。

そこは問題ない。

でも、このゴーレムを倒す為に魔鉄鋼で作った魔槍が3本も壊れた。

このゴーレムは硬すぎるのだ。


問題は倒した後、周辺の魔物が動かない保障がなかった。

そして、戦闘終了だ。


やはりと言うしかない。

ミスリルゴーレムを討伐すると周辺の魔物が襲ってきた。

魔槍を失った槍士は剣を取る。

ここのレベルを考えると、鉄の剣で戦うのは無理があった。


鉄は魔力が分散してしまい、『魔刃』が使えない。


ははは、人生3度目のスタンピード(集団暴走)。

余程縁があるらしい。

人生で2度経験するのが珍しいというが、どうやら3回目はどれほどいるのだろうか?

しかもレベルでも負けて、数でも負けている。

たぶん、終わった。

そう思いながらも抵抗を続ける。


「倒れたミスリルゴーレムを盾代わりにして、半法円陣を引きます」


無駄な足掻き、時間稼ぎだ。


「誰かメルルに盾を渡して!」

「お嬢様!」

「メルルが頼りよ。一頭でも多く足止めしなさい」

「無茶です。無茶です。無茶ですよ!」


ミスリルゴーレムを倒して、レベルが上がったのを感じた。

レベル酔いを感じなかったので、1~2つくらいだろう。

10人で倒せば、そんなものか。

止めを刺した者はもう少し上がったかもしれない。


魔法銃の3段撃ちならぬ、10段撃ち!


前回の反省を踏まえて、魔法袋には100丁の魔法銃を入れてあった。

こんな事もあろうかと!

そう言うつもりで持ち歩いていたのに全然足りない。


どうしてこうなった!


近づいた所で一斉発射!

ばたばたばたと魔物達を倒してゆく。

一発当たる事に体が熱くなる。

やはり、向こうの方がレベル上位だ。


魔獣系が多く、手強い!


簡単に当たってくれない。

当たれば、レベルアップなのに!

10発撃てば、打ち止めだ。

槍を失った3人は私と同じで魔法銃に弾を込めて撃つのを続ける。

アンドラは風の魔法で牽制を続ける。

残り6人で近づけさせないように守りを固める。

的が大きい、ゴリラ風の図体のデカい奴は倒し易い!

気がつくと魔物を倒してもレベルが上がらなくなってきた。


ばきん!

大きな音を立てて、魔槍がまた1つ壊れた。

魔剣の持ち主も『スラッシュ』を連発して、気力が尽き掛けている。


私も魔法銃を撃ちながら、『アース・ウォール』の省エネだ。

腕サイズの杭を打ち上げて、アッパーカットで魔物を吹き飛ばしている。

魔法銃の弾が尽きる前に魔力が尽きそうだ。

魔法回復薬も尽きた。


糞ぉ、魔法鞄も一緒に落ちればよかったのに!

あれには『こんな事もあろうかと!』を言う為に、山ほど武器や魔法薬を詰めておいた。


「お嬢様、上から!」


援軍か!

でも、この魔物が溢れる中に着地は無理だ。

どうする?

そう思うと、何か石のようなモノがたくさん振ってきた。


ずどどどどどぉぉぉぉ!

魔爆弾か!

魔爆弾を放り投げて、広範囲の『ファイラー・フレア』(火のカーテン)で誘爆させる。

絨毯爆撃とはこの事だ。

私らの周辺の魔物が一掃された。


第一弾だけかと思ったが、どうやら後方にも第二弾を行うつもりらしい。

少し後方に魔爆弾を放り投げている。


「アンドラ、『エアー・アウローラ』(そよ風)をあの周辺に!」

「姉様、余り意味はありません」

「後で説明します。撃ちなさい」


アンドラにそう言いながら、私も次の魔法を唱えた。


『アース・パブルス』(砂嵐)


魔爆弾が落ちると同時に『ファイラー・フレア』が放たれて誘爆する。

後方の魔物達が一掃された。

アンドラが目眩を起こして膝を付いた。

私もレベルアップで体が熱くなる。

思った通りだ。


「気を引き締めて、まだ終わった訳じゃないわ」


皆が「はい」と一斉に返事を返してくれた。

目眩を覚えつつも何とか耐える。


「姉様、これは!」

「一人だけレベルが上がるのは癪でしょう」

「こんな方法があったのですね」


以前、ダンジョンで魔爆弾を放り投げて敵を倒してもレベルが上がらなかった。

そうだ!

決めてとなった『ファイラー』の魔法を使った者のレベルの上がり方が著しかった。


魔爆弾を使用したとき、その周辺で魔法を使った者に討伐経験が返ってくるのではないかと予測していた。

そして、その通りとなった。


さて、落下組みは着陸シークエンスに入ったらしい。

飛翔魔法をもっている者が皆の手を持ち上げて減速を掛けている。

なんか、手を繋いで上に放り投げる感じか!

落下速度がある程度殺せれば、肉体強化で強引に着地した。

25人が着地と同時に掃討戦に移行する。

その一人が駆け寄ってきた。


「お嬢様、魔法鞄をお持ちしました」

「派手に使ったわね!」

「拙かったですか?」

「いいえ、最高よ」


魔法鞄から予備の魔鉄鋼の槍を取り出して皆には渡す。

当然、私達も掃討戦に参加するつもりだ。


「深追いはするな!」

「押し返すだけでよい」


降りて来たのは25人で、ベテランも何人か降りてきている。

そのベテランが指示を出して統制する。

数が足りないので無理はしないのか!


甘いな!


ふふふ、押し返すのはさっきまでだ。

魔法鞄があれば蹂躙できる。

今までの恨み張らすべし!

まずは迫撃砲だ。

この弾は地表で爆発すると、魔弾が四方に飛んで周辺を一掃する。

最初に出したのは、3×3の9連迫撃砲だ!

9発の迫撃砲が四角の面で魔物を四方から魔弾を浴びせた。

1発の迫撃弾の中に魔弾が100発収納されている。

着弾と同時に手榴弾のように四方に魔弾が飛び出す。

9か所同時に炸裂し、面ごと敵を一掃する凶悪な兵器だ。

しかし?

意外に殺傷性が低く、瞬殺とはいかない。

でも、手足や体が蜂の巣状態だ。

瀕死状態で緑の血を流す魔物を大量発生させる。


私は試作機3台を横に並べて、次々と発射してゆく。


「アンドラ、遅い! 予備の弾を詰めてゆきなさい」

「はい、姉様」


ヤラれたら100倍返しだ!

森まで一頭たりとも生きて返すものか。

私を怒らせたことを後悔しなさい。

魔物の動きが止まった所で立ち上がった。


「みんな、止めを刺して、経験値を貰いにゆくわよ」

「うおぉぉぉぉ!」


援軍に来た25人が魔物に同情し、ちょっと呆れ顔だった。


「姉様、1つだけ聞いていいですか?」

「何?」

「迫撃砲の弾はいくらします」

「父上ならひっくり返るわね!」

「やはり、そうですか」


元々、魔弾1発は製作費に金貨1枚が必要だった。

今は魔鉄石を採掘するようになって10分の1に値段が下がったが、それでも1発が銀貨1枚もする。

迫撃砲の弾には魔弾が100発装填されていて、1発が金貨10枚だ。

9連迫撃砲は9発同時発射なので金貨90枚が一瞬で消える。

私はそれを惜しげなく連射した。

金貨5,000枚以上が一瞬で溶けてなくなったと聞けばびっくりもするだろう。


知らぬが花ね!




あとがき

知らぬが花:「知らぬが仏」と「言わぬが花」が混ざってできた表現です。

知らない方がいいという意味と値打ちを知られたくないというニュアンスが含まれます。

価値を知らない方が仏でいられると表現したいので造語を使いました。


・知らぬが仏:知れば腹が立ったり悩んだりするようなことでも、知らなければ平静な心でいられる。

・言わぬが花:物事は露骨に言ってしまっては興醒めするものであり、黙っているほうがかえって趣があったり、値打ちがある。


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