第49話 幸事魔多しというけれど!
拝啓、皆さまはお元気でしょうか、エリザベートは元気です。
春の温かさが花たちを起こしたでしょうか。
皆様にはますますご壮健であられるように願っております。
昨年の秋に風土病を患いましたが、至ってわたくしは元気でございます。
常々、ご心配ありませんように。
年が明けての舞踏会も大変楽しみにしておりましたが、まだ完治に至らず、とある場所で隔離されております。
皆様とお会いできることをどれほど楽しみにしていたか、言葉を尽くしても足りません。
春に会うことをお約束していましたが、その約束をお破りすることをお許し下さい。
本当に患って寝込んでいる訳ではございません。
思うことは色々ありましょうが、いまはただ心にお納め下さい。
王都に戻った折にお聞き致します。
お会いできないことをお伝えすると共に取り急ぎ一筆書かせて頂きました。
かしこ。
風土病とは、私のおっちょこちょいのことです。
隔離とは、ダンジョンの中です。
はい、只今、エリザベートはダンジョンの落とし穴に落ちて、中ボスのエリアで閉じ込められています。
魔の森にあったダンジョンは気が遠くなるほど大きく、ただいま帰り道を探している所なのです。
ははは、もうすぐ13歳、エリザベートは魔物を討伐しながらピンピンしています。
◇◇◇
事の始まりは、アンドラの裏切りです。
「僕、すでにレベル26です」
ずっと一緒だったと信じていたのに、アンドラは私を裏切って、一人だけレベル26になっていた。
信じられません。
ずっと一緒だったのに!
「姉様、僕もワザとではなく」
「今年はレベル上げです。いいですね、ヴァルテル!」
「仕方ありません」
ステータス上げを中止して、レベル上げに変更した私達は普段より奥に入ってゆきました。
年中を通して霧のような靄が広がる魔の森が、今年は晴れていました。
異常気象のせいでしょうか。
近年、稀に見る晴れやかな空。
森の隅々まで見渡せたのです。
いつもは何げなく通過していた山の麓に洞窟を見つけた。
当然、探査です。
入口の小さな洞窟は入ると意外と広く、洞窟ではなく、ダンジョンであると判明した。
偵察隊を編成して探りってゆくとレベル上げに丁度いい魔物が徘徊しており、私はダンジョンの浅い階でレベル上げをすることを決めた。
私はダンジョンを甘く見ていました。
入口近くにあるドームに入ると、2~3人では反応しなかった落とし穴が、8~9人の団体に反応したらしく、私はあっさりと落とし穴に落ちたのです。
「姉様」
その穴に身を捨ててアンドラが飛び込んできます。
深く暗い穴を抜けると、大地が下に見えるほどの巨大なドームに放り出され、そのまま地下へと落ちていったのです。
『タービュランス(乱気流)』
アンドラの風の魔法で着地する瞬間に上昇気流を起こして着地を緩和して一命を取り留めたのです。
軽く数百メートルはあったでしょう。
落ちた衝撃は肉体強化で防いでも骨折は免れません。
私は魔法袋からハイポーションを取り出して呑み干します。
「すぐに回復を! 何が来るか判りません」
「はい」
落ちた数人もショルダーからハイポーションを取り出して飲みます。
「メルルは…………いらないようね」
「酷いです。私にも薬を」
「薬は貴重なので、メルルは瞑想でもしておきなさい」
「お嬢様!?」
ホント、メルルは丈夫だ。
アンドラもハイポーションを飲んでいた。
自分一人なら着地も可能だったのに、全員を助ける為に広範囲魔法を強引に使った。
一緒に骨折とは悪いことをした。
アンドラは治癒魔法薬と一緒に魔力回復薬も口に含んでいた。
ずっとタービュランスを発動し続けたようだった。
考えてみれば、土をトランポリンのように柔らかくすればよかった。
失敗、失敗!
立ち上がると、そのドームの大きさに驚いた。
巨大だった。
空を見上げるように天井は高く、光苔でも生えているのか、ドームは非常に明るい。
落ちた所は岩などがむき出しの荒野っぽい場所だが、四方には森や湖が広がっていた。
魔物さえいなければ、住めるのがないかと思える。
森の方から殺気を感じる。
魔物が私達を見つめているようだ。
しかし、襲ってくる気配はない。
「お嬢様、お嬢様、お嬢様」
腰の魔法具が光って、従者長の声が聞こえてきた。
魔法具に魔力を注いで答えて上げた。
「わたくしらは全員無事よ。今の所はね!」
「それはよろしかった。旦那様にどう弁明しようかと悩みました」
「ここがどこかは判らないけれど、随分と深くまで落ちたわ。簡単に上がれそうもないわ」
「判りました。すぐに食糧と援軍を送ります」
「風魔法か、飛翔魔法が使える者で! 普通に降りると助からないわ」
「畏まりました」
この魔法具は貴重な大き目の魔石を半分に割って、時間停止の魔法で時を凍らせて保存する。同じ魔石が共鳴することで遠くの人と話すことができる。
一度使うと魔石は消滅して、二度と使えない使い捨ての魔法具である。
作るのも手間であり、それなりに大きい魔石でないと作れない。
かなり貴重な魔法具だった。
ただ、こういった場合は便利だった。
生きているか判らない私の為に二重遭難を覚悟して決死隊を送るのは難しい。
でも、こうして安否が確認できたなら決死隊を編成できる。
そう言っても、
この11人で魔物の群れを凌ぐのはキツ過ぎる。
周辺で殺気を放っている魔物達が襲って来ないのか?
嫌な予感しかしない。
そんなことを考えていると、ストーンサークルのような台座が光を放った。
これが隔離の始まりであった。
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