第13話 シスコンなんてお呼びじゃない。

学園の最初の実習イベントを終わってマリアは学園に戻って来ると、冒険ギルドに呼ばれるイベントが待っている。

マリアに協力した貧弱パーティが冒険ギルドから指定依頼を受けて王都にやってくる。

その指定依頼は、ダンジョンで獲得した宝具の提出である。

マリアも宝具を貰ったので冒険ギルドにやってきたのだ。

要するに王様が宝具を欲しがっているからダンジョンで手に入れた宝を冒険ギルドに売れという命令だ。


「糞ぉ、俺の『黄金の鎧』が!」

「私もローブも?」

「祈りの指輪」

「諦めろ! 俺だって、この『勇気の剣』を手放したくない」

「逆らったら除名だものね」

「貰った金で新しい装備を買いに行こうぜ」


マリアも冒険ギルドに『静寂の杖』を提出した。


「バートリー卿のご令嬢は提出する必要はございません」

「私もこの杖を所有していますが?」

「いいえ、貴族様の所有物を奪ったなど知れましたら、私の首が飛びます。王がそれを欲するならば、勅命が下るハズです。それまでは所有して下さい」

「はぁ? 判りました」


マリアは司教の娘であり、マリアの持ち物は教会の持ち物だ。

教会の物に手を出せば、王宮の命令であってもギルド長の首は簡単に飛ぶ。

没収は他のメンバーの持ち物のみ、ギルドが買い上げて王宮に献上することになった。

メンバーは近くの酒場で自棄酒を飲んだ。

飲み潰れた。


「こめんね! こいつら馬鹿だから」

「いいえ、楽しかったです。宿まで手伝いましょうか?」

「いいってば、その当たりの路地で放置して、歩けるようになったら連れて帰るからさ。それよりも、送れなくてごめんね」

「私は大丈夫です。これでもレベルが上がりました」

「ははは、そうだった。気を付けな!」


そういってマリアは仲間達と別れた。

その通り道で店から放り出された子供も出会ったのだ。

母親が病気で薬を買う為に金を借り、借りた金で姉が売り飛ばされそうになっていた子供だった。


「母ちゃんの働いた分の金を返せ!」

「馬鹿野郎、勝手に休まれて、こっち迷惑掛かっているんだ。逆に迷惑料を払え!」

「糞ぉ!」

「この餓鬼が!」


飛びかかった子供が店主の蹴りで道の反対側まで飛んだ。

マリアに倒れた子に寄ってヒールを掛けた。


「止めなさい」

「そこをどけ!」

「退きません。これ以上に暴行は止めて下さい」

「こいつが悪いんだよ」

「かぁちゃんの、金を返せ!」

「殺すぞ、餓鬼が!」


マリアは体を張って店主を止め、その子の家に送った。

母親にヒールを掛けて治療すると症状は緩やかに回復した。

しかし、その子が不在の時に姉が連れて行かれたと聞いて、マリアは悪路に踏み入れる。

相手は下町の悪党シャイロックだ。


「その子の借金である銀貨4枚を持ってきました」

「残念だ、それは昼までだ。もう、こいつも引き取ったからには買い取って貰わないと返せないな」

「いくらですか?」

「金貨5枚だ」

「暴利です。そんなお金はありません」

「そうか、残念だ。だが、あんたがその気なら一晩で金貨5枚が稼げる仕事を斡旋してやるぜ」

「本当ですか!」

「貴族のお嬢ちゃんを抱きたいという変態な商人ならごまんといるんだよ」

「お断りです」

「ぎゃははは、ここまで来てお断りできると思っているのか!」


マリアの抵抗は空しく、シャイロックの部下に捕まってしまう。

そこに颯爽と現れるのが謎の騎士だ。

薔薇を模した杖を振うと、雷撃がシャイロックの部下を襲ってマリアを解放する。


「ありがとうございます。貴方様は?」

「名乗るほどの者ではない。『黒薔薇の騎士』とでも呼んで貰おう」

「ありがとうございます。黒薔薇の騎士様」

「そこの悪党、その娘を話せ!」

「そんな話が聞けると思って…………あっ、お許し下さい!」


まるで三文芝居だ。

黒薔薇の騎士は自分が付けている指輪を見せると、シャイロックは突然に手の平を返したように従順になった。

シャイロックは捕えてきた娘を手放すと、黒薔薇の騎士に土下座をして許しを請う。


「よいか、この子に何かあれば、おまえの首を刎ねる。理由のいかんは問わない」

「判りました。手を出しません。面倒も見させて頂きます」

「アポニー家の目はいつでもおまえの背中を見ているぞ」

「処置しております」


こうして、マリアと悪党シャイロックのファーストコンタクトが終わるのだ。

これがゲームの流れだ。


黒薔薇の騎士って、最悪のネーミングよね!

マリアの親友になるドーリの兄は均整の取れたスタイルの良さと美しい顔立ちから『黒薔薇の君』と呼ばれていた。

黒薔薇と呼ばれる理由はアポニー家の礼装が黒を基調とした服装とされていたからだけど、正義の仮面タキシードはいいけど、ネーミングに捻りが欲しいわ。

華やかな舞踏会の中に黒のタキシードを身に纏うのがアポニー家の礼儀だ。


仮面を付けただけで正体がばれないのはお決まりと言えば、お決まりだけどね!


因みに、女性は黒のドレスを着用する。

黒いドレスコードに妹のドーリの白銀のプラチナブロンドは嫌でも目立つ。

あれほど美しい髪なのに、本人は白髪婆のような髪と嫌い、人前に出るのを嫌がっている。

母親を早く亡くした妹のドーリを可哀想に思ったノアは愛情を込めて見守った。

甘やかした。

我儘を許した。

そんな妹を可愛がった。


ノアは超シスコンの変態・・・・よ。


見た目はいいけど、シスコンなんて好みじゃない。

一応、ゲームですから攻略しましたよ。

ゲームじゃなかったら、一生ノータッチね!


ノアの神出鬼没な行動はどこからヒロインを助けるヒーローのようにカッコよく見えたが、よく考えると不自然なことが多すぎた。


どうしてマリアのピンチを知ったのか?


今の私なら理由が簡単に判る。


愛しい妹ドーリに近づくマリアを探っていたのだ。

アポニー家は代々王家の番犬(調査部)が使える。

その番犬(調査部)を使ってマリアを四六時中見張っていた。


現代風に言うなら超スーパー『ストーカー』だ。


マリアが悪路(下町)に向かったと知ったノアは、マリアを問い詰めようと悪路(下町)に行って偶然に出くわしたというのがオチなのだろう。


エリザベートになって始めて知った。


「姉様」

「姉様じゃありません」

「すみません、お嬢様。番犬は僕たちを見張っているのでしょうか?」

「判りません。王家の諜報能力がどれくらいなのかは知るところではありません」

「そうですか」

「でも、これから騒ぎを起こせば必ず知れます」

「ですから、変装しているのですね」

「そういうことです」


金髪は半島中央部の特徴的な髪の色だ。

特にエルフ種は半島に多く、大陸に近づくほど少なくなる。

私達が住む南方はブランウンの髪が多い。

稀に黒と先祖返りの赤の髪が出てくる。


私の赤は母親似の赤よ。

目立つ赤い髪の少女が悪路の悪党シャイロックと接触したとか、すぐに噂になってしまう。


「お嬢様、シャイロックは優秀なのですか?」

「かなり優秀よ。まっとうに生きれば、かなりの豪商になれたかもしれないわ」

「それは残念ですね」

「いいえ、好都合じゃない」

「はい、そうでした」


私はにやりと悪い顔をする。

エルフ耳のアンドラは何とも言えない表情で困ったように笑っている。

困ったエルフ・アンドラも可愛い。


この悪党シャイロックは隣国の王子に要請を受けて、超シスコンのノアが敷いた警戒網を掻い潜ってアポニー家の令嬢ドーリの誘拐に成功している。


普通の悪党では絶対にできない。


だから、私の手駒になって貰う。


巧く舞って貰うわよ。


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