第8話 この腐れ外道め、私の覚悟を返せ!
スタンピード(集団暴走)が終息した。
半日も掛かった。
魔物さえ数が減れば、6人組の調査隊10組でダンジョンに突入できる。
平均レベル25の精鋭揃い。
こんなダンジョンはチョチョイのチョイだ!
あっという間に10層まで降りられるとおもったのに…………どうしてだ?
ダンジョンの攻略の総勢は、ダンジョン調査隊60人(自領の冒険パーティを含む6人10組)、魔物素材を回収する回収隊30人を2組、回収した魔石や素材を輸送する運搬隊60人、自領まで荷物を運ぶ荷馬車の御者と手伝いと護衛を含む120人、合計300人で挑んでいる。
よくこんな大勢が他領に進軍できたかと言えば、トリックがある。
我がヴォワザン家は秋の収穫期になると他領に魔石を売って小麦を大量に買う。
この小麦を買う為に荷馬車隊に12人の護衛を付けた。
5台編成の荷馬車隊を10組で50台分の護衛と人夫と御者含めて総勢300人になる。
これなら誰も不思議に思わない。
えっ、不思議に思うって?
ご安心召され!
王子の婚約者に選ばれた私は父上に願って善行を行った。
そうだ!
我がヴォワザン家は3,000人の貧困難民を引き受けた。
教会から大絶賛!
その難民の為に大量の食糧が必要になる。
多くの荷駄隊が結成されても誰も不思議に思わない。
小麦の保管場所に集積場を作り、買った小麦を一時保管する。
その集積所の近くで山崩れが起こり、未探索のダンジョンを発見された。
未発見のダンジョンは宝の山。
私達は急きょ調査隊を編成した。
というのが、シナリオだ。
未発見のダンジョンと聞いて、この地の領主が調査隊を派遣する。
それが遅れるほど都合がいい。
間抜けな領主だといいな!
マリアがダンジョンを捜索して帰ってくるまで調査隊が編成されたという記憶はない。
4日間は大丈夫だ。
それまでに財宝を手にいれて持ち出せば問題ない。
そう、問題ない。
問題ないハズだが、すでに半日が過ぎている。
時間が減ってゆく!
マリアは半日で10層まで行ったのに、同じ半日で私達はまだ6層にいる。
記憶と違う?
そんなことありません。
私は何回周回したと思っているのよ。
6層の迷宮の門に辿り着いたときは門が閉まっていた。
ゲームではマリアが到達したときはすでに門が開かれていた。
あははは、嫌な予感しかしない。
「ヴァルテル、ダンジョンで冒険者が死体になるとどうなるのかしら?」
「1日ほどでダンジョンに取り込まれます」
「装備品は?」
「装備品も一緒に消えます」
「この門の向こうに大量な魔物がいたとして、冒険パーティは耐えられるかしら」
「レベルによって違いますな?」
「この近くの町の冒険者のレベルならどうかしら」
「全滅しなければ、奇跡ですな!」
誰か門を開けた後にマリア達がダンジョンに来たとすれば、魔物はすべて外に逃げ出していた。
簡単に攻略できた訳だ。
「気を引き締めろ! 何が起こっても慌てるな!」
「姉様、何があるのです」
「判らない。判らないから覚悟しなさいと言っている」
「魔爆弾もいつでもいけるわね」
「はい」
「魔法銃は門を開閉後に一斉発射、その後に前衛が突入します。魔法士はすぐに交代して援護に入るように、あとは臨機応変、各自の判断に任せます」
「おうぉ!」
それを合図に門が開かれた。
嫌な予感は当たった!
再び、スタンピード(集団暴走)だ。
レベル10くらい!
トロルとか体かデカくて丈夫でやり難い。
リビングアーマーとか固いし、急所以外は攻撃無効とか無しよ。
クァールは豹そっくりの魔物で長い髭が無ければ豹ですよ。
めっちゃ速すぎ!
ジャガーノートはトロルの亜種ですか?
大きさはトロルと同じくらいのに断然に強かった。
それを片づけると次がやってきた。
オーガーとリザードマンとアークコボルトとかレベル15を超えていますよね!
口に牙と指の爪が滅茶苦茶ヤバいです。
デカい奴と速い奴が混ざると収拾がつなかい。
負傷者が増大中!
何とか凌いだと思った所にミノタウロスが大量に上がってきた。
「お嬢様、もう駄目です。逃げましょう!」
「メルル、黙って負傷者を回収してきなさい」
「あの中ですか! 無茶ですよ」
「援護します。早く行きなさい」
「お嬢様の馬鹿!」
馬鹿と言いましたか、あとでおしおきマシマシね!
長時間の戦闘で疲れはピークに達しており、負傷者も増えた。
魔力回復の魔法薬は早々と尽き、治療薬もなくなった。
魔法士は魔力が尽きて瞑想中、使えるモノは全部使った。
でも、ミノタウロスの数は増えるばかりで減ってない。
皆、がんばって次々と倒している。
倒しているが倒した数より上がってくる数の方が多い。
戦力が3割を切ったら全滅!
もう、撤退するべきだ。
頭の中で警鐘がなっている。
そうだ、メルルの手を借りている時点で終わっている。
見積もりが甘すぎた。
調査隊の数が少なかった。
魔力回復薬をもっと揃えておくべきだった。
魔法銃も数があったなら!
後悔ばかりが頭を過る。
「勇敢な兵士よ。わたくしに撤退の文字などありません。たとえ死しても躯となってもここを死守せよ!」
私は叫んだ!
兵が「おぉ!」っと雄叫びを上げてくれる。
「お嬢様を守れ!」
「女神の試練だ」
「乗り越えるぞ!」
「片腕が無くなったくらいで怯むな!」
士気だけは回復した。
空元気だけどね!
逃げる?
どこに逃げ場所があるの?
ミノタウロスが門を抜けた瞬間に本当の全滅よ!
私達いなくなれば、上にいる者も抗う手立てがない。
ふふふ、見誤った。
逃げる選択など最初からない。
死ぬ気はないけど、死なばもろともだ。
耐えきれ!
死中に活あり、背水の陣だ。
そんなことを考えながら魔法銃の引き金に魔力を流した。
ズキュ~ン!
糞ぉ、当たらない。
「お嬢様、ここの指揮をお願いします」
「判ったわ」
大まか指揮は私が言うが、細かい指揮はヴァルテルが出していた。
その家令のヴァルテルが撃って出てくれるらしい。
バスターソードを手に取った。
ヴァルテルは強い。
練習で散々虐められている私がよく知っている。
これで形勢が少し…………?
ズバズバスバ、なんじゃこりゃ!
飛び出したヴァルテルはまるでバターを切るようにミノタウロスを切り倒していった。
一人だけレベルが違う。
50匹ほどいたミノタウロスを一人で始末した。
「何を遊んでいる。もたもたすると次が来るぞ!」
帰り際に部下に檄を送って戻ってきた。
「ヴァルテル、私は精鋭を連れてきなさいと言ったわよね」
「はい、お嬢様」
「わたくしを騙したわね」
「いいえ、我が一族の
「ベテランを入れておきなさいよ。いるのでしょう!」
「ははは、ダンジョンの10層ですよ。ベテランを入れては訓練にもなりません。私一人でも余裕でございます。他に要りますか?」
こいつ、訓練と言い切りやがった。
最初からピンチでも何でもなかったのね。
この腐れ外道!
私が削った覚悟を返せ!
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