第9話 ゲーム制作者に激昂した。

10階、見慣れた風景。

ゲームの序盤、ダンジョンに入る前から駆け出しの貧弱パーティはゴブリンやオークというD級(レベル10未満)でも苦労した。

マリア達はC級(レベル10以上)の魔物を探して10層まで降りた。

シーフがいるけど、アンロック(開錠)すら覚えていない。

そんな貧弱パーティだから施錠された部屋に入れない。

それが幸いして、10層の神殿まで辿り着けた。


マリア、何というラッキー!


開かれていない部屋の中にトロル(レベル10)やオーガー(レベル15)などの魔物が詰まっていた。

扉を開けられれば、その時点でバッドエンドか、課題クリアーになる。


「姉様、お一人で先に行かれるのは危険です」

「魔物はもうほとんどいません」

「ですが!」

「何となく、法則が判ってきました。スタンピード(集団暴走)が起こると、中の魔物はダンジョン外へ出ようとする習性があるみたいです」


スタンピード(集団暴走)が起こるとダンジョン内の魔物が一時的に激減する。

そうなると魔物と出会うには条件はいる。

まずは、ダンジョンが新しく産まれた魔物、あるいは、特殊な条件に縛られた魔物、

施錠された部屋に残された魔物、そのいずれしかない。

遅れて上がってきた魔物を除くと、7層から魔物と出会っていない。


ならば、この階にいるのはあいつだけだ!


「姉様はここを御存知なのですか?」

「ええ、夢で見ました」

「ここには魔物が一頭しか残っていません」


そうだ、マリア達が戦った神殿の守り番であるミノタウロスだ。

貧弱パーティではボロボロになったが、マリアの回復魔法で辛勝した。


ぐげあぁぁぁ!

迷宮を進み、神殿の前にホールに到着すると守り番のミノタウロスが叫んだ。


「姉様!」

「大丈夫です」


ミノタウロスは身の丈が人の倍ほどある巨体な魔物だ。

その巨体から打ち下ろされる石斧は冒険者を押し潰す危険な鈍器となる。

7歳の私は普通の人の腰くらいの身長しかない。


押し潰されて一瞬で終わるだろう。

避けても安心できない。

床を壊して飛び散る破片を喰らっても致命傷だ。

もちろん、逃げる気なら先頭を歩かない。


ずん、ずん、ずんと大きな足音を立てて、自分の4倍以上の巨体が石斧を振りかざして近づいてくる。

私は魔法銃を構えた。

ミノタウロスは私に向けて、石斧を大きく振り上げた。


「姉様!」

「見ていなさい」


ぐげあぁぁぁ、ミノタウロスが吠えた!


ズキュ~ン!


魔法銃が火を噴くとミノタウロスの胸元に大きな風穴が空いて動きを止めた。


ふ~、怖かった!


どんなに恐ろしくでも知能が低く、真っ直ぐに突っ込んでくるミノタウロスならこうやって倒すこともできる。

おやぁ、体が少し熱くなった。

どうやらレベルが1つ上がったみたいだ。


さぁ、神殿に入りましょう。


 ◇◇◇


私が目指したのはダンジョン制覇ではない。

地下10層、古代帝国人が残した王の墓の探索だ。


墓には何があるのか?


マリアはここで『清浄の杖』というA級の宝具を手に入れる。

装備すると魔力効果を10倍になるという優れモノだ。

これを持てば、魔力才能1の私も魔力才能10のマリアと同格の魔法が使える。


初期魔法限定、光の魔法の効果100倍のおまけが付く。

マリアに持たせると『鬼に金棒』のチートアイテムになる。

エリア・ヒール(広範囲回復)で杖の効果1000倍ですよ。

村ごと治療できるとか、デタラメよ。

教会に助けを求めて来た人々をエリアごと治療するから『黒髪の聖女』とは言われることになる。


これをマリアに持たす訳にはいかない。


でも、中級魔法のハイ・ヒールなると100倍効果が消えてしまうという残念な仕様になっている。この凄いのか、凄くないのか、微妙な宝具が『清浄の杖』であり、王の墓を目指す目的だった。

そして、もう1つは王の財宝を奪う。

王の墓に入ると、王の残留思念がビジョンとなって現れた。


『勇者よ。よくぞここまで辿り着いた。我はすでに死した者なれど、その功績を讃え、奥の宝物庫の宝をそなたらに与えよう。そして、賢き子らよ。棺を開けようとしなかったことを褒めてやろう』


そう言って宝箱のある部屋を開けてくれる。


「姉様、宝具がたくさんあります」

「そうね、いくつかは王に献上しましょう」


冒険者なら十分に満足できる金銀財宝が置かれていた。

でも、古代帝国の王はこの時代の冒険者の貪欲さを考えていなかったのだろう。

巧く騙せると思ったのね!?


マリア達は騙されたけど!


夏になる頃、

王の棺を開けた馬鹿がおり、天井が崩落して王の墓が埋没する。

そして、埋没した瓦礫を撤去して、王の棺から金の指輪を盗み出し、神殿の入った最初の大広間の壁に隠された本物の宝物庫を発見するのだ。


王都はその財宝でゴールドラッシュが到来した。

貴族も冒険者も醜く、宝を奪い合い争った。

貴重なオリハルコンやミスリルもあったらしく、王国内は大混乱になった。


貴族学園の生徒は夏合宿で北の別荘に行っていた。

王の墓の心理トラップにマリアが引っ掛かったことをエリザベートが丁寧に教えてくれたのだ。

もちろん、マリアの中の人は悔しがった。

私も悔しがった。


で、ゲーム二周目から王の棺を開けて、さっそくBADEND。


棺の鍵を探した。

でも見つからない。

占い師が『古代帝国の姫が鍵を持って東方に旅だった』とか言っていた。

すべてのパターンを探した。

どうやら最初から見つけるイベントなど存在しないようだ。

私はどれだけ猫の目のようにヒントを探したことか!

とほほほ、なのよ。


さて、もう1つの情報は10層にある宝の部屋だった。

正面の聖堂にはエクサリーがあるとか、他にも施錠された部屋に入ると手に入るアイテムがあった。

宝を求めて万能鍵を購入して扉を開ける。

飛び出してくるのはミノタウロスの団体さんだ。

すべてBADENDだ。

どんなに知恵を絞ってもクリアーできない。

マリアのパーティでは2頭以上のミノタウロスを相手にすると全滅しかない。

死亡回数が2桁になり、3桁に近づいてゆく。

攻略ブログのコメント欄は炎上だ。

誰一人、お宝をGETできない。

1周目で成功させ、2周目以降でプレイヤーを嵌める巧妙な罠だった。


酷いと思わない?


あのゲームの制作者の性格を疑ったわ!


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