2節
精密女が、部屋から首を出して廊下を覗いている。
所長の部屋には、確かにパイプが存在しない。壁に埋められているとさっきも説明されたが、廊下はそうでもなかった。ここへ来るまでに、パイプの少ない方を選んで回り込んできたし、なるべく音を立てないように歩いた。
「……今は、危険でしょう」
精密女が難しそうな顔をしながら戻ってくる。
既に、所員全員には所長の端末から「しばらく部屋の外には出るな」と伝えてあった。同じ階におおよその所員が集まっているようだったが、人の気配がない。
「ふくみさんではないので、私はなんとも言えませんけど、今は少なくとも動かない方が得策かと。私達は、もう明らかにナノマシンに感知されていますから」
妙な沈黙が漂う。現場を調査しろと言われたのに、こんなところで私達は何をやっているのだろう。
「しかたありませんね。ここで事情聴取でもしましょうか」
精密女が腕を組みながら提案する。いつだって、最も冷静なのはこの女だった。
「所長もそれで異論ありませんね。犯人を明らかにしてほしいというのは、そちらの要望ですから」
「ああ……かまわん」
所長は頷いた。
ナノマシンには誰が入っているのか。それがわかれば、今後の行動も予測できるかもしれない。そういった理由がある、とも精密女は私達に耳打ちして付け加えたけれど、所長にはシャクだったのか漏らさなかった。
改めて、所員の紹介をされた。
まずは所長。園部隆弘。太った初老の男性。現代型の水力発電の発展に、対象なりとも貢献したと言う話は、本人の口からも聞かされたのだが、とてもそういう風には見えない。
水力発電に関係する会社を辞めて、以前から興味を持っていた、液体への人格投影の実験を主とする研究所を立ち上げる。その際に、水力発電の知識を生かして、この建物を設計したらしい。建物全体が水で覆われているのはそのためだし、軽いメンテナンスであれば、所長自ら済ませられると彼は語る。
そして、研究所が生業としているが脳科学の分野、つまりナノマシンを用いた水分への人格投影技術だった。所長は脳科学に関してはズブの素人ではあったが、熱意とコネクションの関係から、それを対象とすることを選んだ。
ナノマシンはすでに説明したとおり、水の中に分有されており、人格データを投影して意思のままに水全体を操作できる。まだ厳密には実用化からは程遠いのだが、実験は幾度か成功してもいた。
それから所長は、ナノマシンは実験当日に製造し、翌日には破棄されるというルールがあると話した。機密を守る目的でそうしているようだった。
予め用意したナノマシンを使った殺人事件という線は、これで消える。所長の考えの通り、あの三人の誰かが、自分の人格をナノマシンに投影して、自分もろとも全員を殺害して排水溝から逃げた、という仮説が現実味を帯びてきた。
「海に出られると知っているんだ、あいつは……」所長は、思いつめたように頭を抱えてつぶやく。「終わりだよ、海になんて逃げ込まれたら大惨事さ……」
「えっと、所長は事件発生当時は何をしていたんですか?」
美雪が授業で質問するような調子で、尋ねる。
「発生当時か……確か、発見したのが昼頃だったな。実験から戻らないから、おかしいと思って私が見に行ったんだ……。今朝から私は、地下で排水設備のメンテナンスをしていたよ。アリバイを証明してくれる人は……いないね」
現在の時刻は十六時だった。あまりロクな食事も取っていないことを、私は思い出した。
続いて、倉田さんに話を聞いた。
倉田静。鋭い目つきの、妙に近寄りがたい印象のある美人だった。秘書のような役割を担っており、実質的に副社長だとも囁かれていた。
彼女は先日、海外出張から帰ってきた所だと話す。目的はプロモーションだ、と使った資料も見せられた。目を通してみたけれど、英語で書かれていたので、私には何一つわからなかったが、精密女は「確かに、ナノマシンによる水分への人格投影技術の宣伝みたいです」と頷いていた。読めるのだろうか。時々だが、彼女はこういった時に適当なことを口にする。
海外出張が多いためか、所員との面識はあまりない。那須とは同期で、昔から仲の良かった友人というくらいだった。そのため、事件発生当時は、事務所で海外から集めた資料をまとめることに終止していた。彼女もアリバイはない。
そしてもうひとり、大川崇さん。所長に似た風格を持つが、顔はまだ若かった。実験に於いては、時折リーダー的な立場を取るが、あくまで普通の研究員だと語った。
所員とのコミュニケーションは、所長よりも密接に取っている、と彼は少しだけ嫌味のように口にしたが、所長は申し訳無さそうに一言笑っただけだった。
事件発生時は自室にいたらしい。つまりアリバイはない。
そして最後に、茅島さんと一緒に排水ブロックへ行った、那須由加の人物像を尋ねた。倉田さんの同期らしいが、彼女は何も話さないで大川さんが口を開いた。
「別に。よく働く優秀な所員だとは思うけど、突出して目立つような点はありませんよ」
それだけだった。その評価は、少し冷たいんじゃないかと感じたけれど、事実なのだとしたら、私が気に病むだけ意味はない。同期の倉田さんとも扱いがここまで違うこと、それ自体が証拠なのかもしれなかった。
「倉田さん、親しいんですよね?」美雪が彼女の方を向いて言う。「那須さんはどんな人なんですか? 事件発生時には一緒でした?」
倉田は、異様に寂しそうな顔を見せてから、首を振った。
「親しいですけど、もう疎遠なんです」
「……そうですか」
「だから、事件のときにどこにいたのか、までは私も知りません。第一、出張から帰ってきて初めて顔を合わせたのが、さっきの実験室ですから……」
「那須くんだったら、確か朝から給与計算を頼んでいたはずだから……自室にいたんじゃないかな」
所長の言葉を、美雪は注意深くメモした。
「次は、亡くなった所員のことを教えてもらえますか」
精密女が所長に訊く。だが、答えたのは大川さんだった。机に腰かけた姿勢のまま、彼は無人島に流れ着いたときみたいに手を挙げた。
「僕が話しますよ、所長。一緒によく実験もしていたのは、僕なんですから」
「ああ……ならお願いするよ、大川くん」
彼は嬉しそうに、私達の顔を見ながら説明を始めた。
亡くなった女性のうちの一人、加藤さえ。小柄だが、随分と勝ち気な印象だったと彼は言う。別段優秀というわけではなかったが、とにかく何かを頼んでおけばそれなりの結果を出していた。その性格に見合っているのか、かなり手柄というものにこだわっていた。
「プライベートのことはよく知りませんね。死んだもうひとりの女性所員……菅谷とは似たような趣味だったようですけど、僕は詳しくわかりませんね」
流れで菅谷の話になる。
菅谷二葉も、同じ階級の平凡な実験員。加藤とは正反対で、柔らかで大人しいイメージを良く持たれるし、実際そのとおりの振る舞いだったようだ。今回、人格投影実験には初参加だったが、男性所員からの人望を鑑みて参加させたと所長は付け加えた。
そして山際雅人の話になると、大川は小骨でも噛み砕いたみたいに口を濁らせた。
「あいつは……誰よりも優秀でしたよ。真の意味で……。実験の要でした。だけど、誰もあいつの手腕は認めていなかった。所長が把握しているかは知りませんけど、実験は山際がいないと話にならなかったですよ。そのくらい突出していました」
「そうだったのか……すまん。知らなかった」所長は謝って頭を下げた。
「いえ……もう、手遅れですよ」
大川が、白衣の内から、おもむろに電子タバコを取り出した。部屋は禁煙でもなかったらしく、所長はそれを見ても何も口にしなかった。美味しそうとも、なんとも言えない表情を見せながら煙を吐いて大川が続ける。
「変な話なんですけど……山際、あいつ、確かによく海に行きたいって言ってたんですよね。いや、あいつは犯人じゃありませんけど……」
「山際くんとあなたって、親しいの?」
倉田が割り込むように訊くと、めんどくさそうに大川が口を開いた。
「……別に、すこし話した印象ですよ。さして友人というわけでもなかったですけど、仕事上の雑談程度ですよ。あいつは……人を信用するのを知らない人間だったから、そこまで踏み込めませんでしたけど」
吸った煙を天井に向かって、追悼でもするみたいに吐くと大川は続けた。
「山際を正当に評価していたのは僕くらいですよ。実際話したり、実験で一緒に組めばわかるが、あいつは凄い。それを評価しないこの研究所も職員も、僕からすればどうかしている思いますけど」
「ちょっと、大川くん」
倉田が鋭くたしなめると、大川が笑いながら謝る。
「いえ、すみませんね。悲しくて……あいつが、評価されないまま死んだってのが……。あの女二人……死んだ女性所員はとくに山際を嫌っていました。バカにすらしていましたよ。日頃足手まといになるような二人がですよ……。あいつら自身も不仲ですから、普段からそんな余裕はなかったんだと思いますけど」
「亡くなった二人の仲は険悪だったんですか?」美雪が質問した。
「ええ……。やりづらかったですよ。特に加藤。あいつは手柄に兎に角こだわっていて、レポートを自分が提出することに、人の何倍も価値を見出すような女です。正気じゃないですよ」
「ああ、そんな印象は私も感じていたよ」所長が頷いた。椅子が軋んだ。「なんていうかな、目立ちたがり屋だったよ。だから、実験にも積極的に参加させないと、不満を持つんじゃないかと思ってそうしていたんだ」
「山際をいじめてたのは、加藤ですよ」
「い、いじめ……?」
急に辛気臭い話題を投げかけられて、私達は困惑した。
そんな私達を見るともしないで、大川は続ける。
「山際は……誰にも相談しなかったけど、迫害されてましてね。まあ、優秀すぎるから妬まれていたんでしょうけど、くだらない。加藤が一番顕著でしたね。菅谷も関与していましたよ」
「そんなことがあったのか?」
所長は首をかしげる。
「ご存じなかったんですか?」
近くにいた私が尋ねる。
「ああ……すまん。所員関係には疎いんだよ。任せきりだからね……。今回のことは、それを放置しすぎた結果なのかもしれん……」
「優秀すぎるとは言いましたが、それも一端でしょうね」大川は続ける。「あいつは研究に純粋すぎた。加藤には、それが一番気に入らなかったんですよ。手柄なんて、あいつは興味がなかったのに、誰よりも上手くやっていたから。菅谷にしても、自分の味方にならない山際には、気味の悪さを感じていたらしいですよ」
「確かに……そうだったな」所長は思い出しながら頷く。「菅谷くんは、少しというか怖いくらい人を味方につけたがっていた。加藤くんとは、その意味では逆だよ。加藤くんは、人を敵に回してでも、自分の手柄を取るからな……。優秀だった山際くんは……目の敵だったんだろうね……そこまで嫌われれば、狭い研究所だ。広まるのも早いんだろう……」
「ええ。現に所員の大半は、山際のことを嫌っているんですよ」
「すまなかった……。把握できていない」
所長は申し訳無さそうに身を縮ませたけれど、山際は興味なんてなさそうに宙を見つめながらタバコを吐いた。
「そういえば、倉田さん。ほとんど海外出張ばかりじゃないですか」
大川が、あまり口を開かなかった倉田に、不意に声を掛ける。
表情ひとつ変えないで、倉田は腕を組みながらはっきりと答える。
「ええ。だから大川くんだってよく知らないの。まともに挨拶できた所員なんて、数えるほどしかいませんよ。由加……那須さん以外はほぼ面識がないと言っても過言ではありませんよ。死んだ三人も、あまり話したことすらありませんから。特に、山際くんなんて、顔も覚えていません」
「もう少し詳しく聞かせてもらえますか?」
美雪がメモを取りながら突っ込んだ。
「詳しくったって……」考え込む倉田。「本当に山際くんとは顔も合わせたことすらありません。存在はもちろん知っていますよ。実験報告書に名前が記されていますから。優秀だという話も。人格については存じ上げません。確か、あの中では最も新人でしたよね、所長」
「ああ、そうだったな。山際くんが若い」
「あの時期は、丁度、私の海外出張が多くなっていた時期なので、紹介も後回しになっていました」
「他の二人とは?」美雪はさらに尋ねる。
「加藤さんと菅谷さんは、後輩なので知っています。那須さんが教育係をやっていたので、気になったんです。大川くんがさっき言っていた通りの人間性で間違いはないかと。ですが……」
そこで倉田は首を傾げて思い出す。
「あの二人が不仲だったとは思えないんですよ。少なくとも、私にはそう見えませんでした。特別親密だとは思いませんでしたけど、私怨がある雰囲気じゃありません。まあ、私の主観ですけど……。ふたりとも、普通に話して普通に受け答えをしていましたけど」
その話は、大川の語る関係性とは矛盾があった。倉田は大川に顎で示すと、彼も首をひねって答えた。
「そうなんですか? まあ、不仲であることは、なるべく知られないようにするんじゃないですかね。ましてや先輩の前で、変な感情なんて出しませんよ」
「……そんなものなのかしら」
「死んでしまった今では、確かめようもないですけど」
そこで電話が鳴った。びっくりしたけれど、私の端末だった。また医師の小言だろうかと思って表示を見ると、私は息を止めて驚いた。
茅島ふくみ。
そう表示されている。私は慌てながら、電話に応えた。
「か、茅島さん!?」
『彩佳、良い? 落ち着いて聞いて』
さっき出なかったことの説明もなにもなく、彼女は神妙な声色で私に告げた。
声が漏れているのか、部屋の全員が私に注目していると、脇から変な汗が滲み出ていた。
「……なんですか」
『那須さんが死んだわ』
――。
何も、言えなくなった。
誰よりも早く反応したのは、所長の隣でじっとしていたはずの倉田さんだった。彼女は血相を変えて私に近づき、私の腕を枝でも持ち上げるみたいに掴んで、叫んだ。
「なんですって!? どういうこと!」
痛い。
『……慌てないで。那須さんが殺されました』
何度聞いても聞き間違えない明瞭さで、茅島さんはそう口にした。
那須さんが死んだ?
「茅島さん、何が……」
尋ねると、彼女は早口で説明する。パイプから吹き出た水に、額を貫かれて那須さんは殺されたと。恐らくはナノマシンの仕業。今はまだ排水ブロックにいるが、追撃を恐れて物陰に隠れているとのこと。
聞くと同時に、倉田さんは泣き崩れた。冷徹そうな彼女が、ここまではしたないくらいに声を上げて泣くなんて、出来るなら絶対に見たくない光景だった。八頭司美雪が彼女の背中を、申し訳無さそうに撫でた。
私は、こちらでもさっき同じようなことがあったと茅島さんに伝えた。幸い誰も怪我はしていないけれど、現場調査は困難で、今は所長室に逃げ込んでいる、と。
「茅島さんは、大丈夫なんですか?」
私は一番に訊きたかったセリフを、ようやく口にできた。
『ええ……私に怪我はないわ。でもごたごたしてて、あなたの電話には出られなかった。ごめんなさいね』
「いえ、無事ならそれで……」
「所長。聞きましたか」精密女が、所長を睨んで口を開く。「まだこんな事態になっても警察には言わないのですか?」
「………………わかった、警察には、通報する」
腹を殴られたような顔をしながら、所長はゆっくりと電話を取る。掛けた先は警察。努めて冷静に、所長は状況を伝えた。
倉田さんはその間も、「許さない……」なんて嘔吐するみたいな呪詛を絞り出していた。
「……さて、問題は警察が来たところで、どうにか出来るかって話ですけど」
精密女は私を見て呟く。
「……結局、茅島さんや精密女さんに負担がのしかかるだけ、ですか?」
「ええ、そう。よくわかっていますね」精密女は苦笑する。「機械化能力犯罪に対する捜査能力を、今の警察組織はまともに有していません。どうせ私達が頑張ってどうにかするだけなんですよ。せめて泣きついてくるのであれば、可愛げもありますけど」
「…………」
「ま、人手が増えるだけありがたいと思うことにしましょう。あー、ありがたいですね」
所長が電話を切る。
「通報したよ。だけど、場所柄か二時間は掛かるらしい。こんな山奥では妥当だろう」
私達も施設の用意した車に乗って来たが、そのくらいの時間は失われた。大人数なら、さらにスマートには行かないだろう。
『二時間ねえ……』茅島さんは舌打ちをする。『私はもう少し排水ブロックを調べて、頃合いを見計らって所長室まで上がるわ』
「はい……気をつけて」
『そっちも、無理しないで』
電話が切れる。私は、排水ブロックの調査は続行するみたいです、と伝えると、所長は犯人探しも続けてくれと頭を下げた。
「頼む。警察には、あまり世話になりたくない。警察が来る前にある程度の目星をつけてくれないか……?」
「あなた、まだそんなことを……」
「お願いだよ……実験に成功する前にこんな大事故、絶対に警察に知られたくないんだ」
成功する前?
「ちょっと待ってください」私は疑問に思った。「実験は上手く行ってたんじゃ」
「ああ……そうか。それは、部分的なものだけだ」所長は言う。「完全な形で人格投影実験を成功させた実績は、まだない。今回だって、そこまで許可はしていなかったはずなのに、こんな事になってしまった……」
「それはつまり、今回の人格投影は、勝手に行われたんですか?」精密女が訊く。
「そうだ、許可していない……。勝手にナノマシンを使われた挙げ句、こんな事態になるなんて……」机に伏せながら、所長は嘆く。「……山際くんは、そう言われれば優秀だったな。部分的な前段階の実験で、いつも望み通りの結果を残してくれていたよ。だから、完全な人格投影の際にも、彼をリーダーにしようと思っていたくらいだ」
「所長。実験データを見せてもらっていいですか」八頭司美雪が、倉田の元から離れて、尋ねる。「なにかわかるかもしれません。予感、ですけど」
「残念だけど八頭司さん」代わりに大川が口を開いた。「あの実験室のコンピューターにしか実験データはないんですよ。機密保持のためにね」
思い出す。水に貫かれてしまったコンピューターを。
「そんな……どこかサーバーに保存されてませんか?」
「完全にスタンドアロンなんですよ。あれは、どこにも繋がっていないんです」
「ナノマシンへの投影のために、人格データをまず採取するのだが、それも同様だよ」所長が付け加えた。「まああれはセキュリティのためにその日には破棄されるし、そもそも人格データのサンプリングだって、かなり時間を要するんだ。膨大なデータ量だからね。一日に一人分が限界だよ」
一日一人まで。最後に人格データを採取した人間が、ナノマシンを使って排水ブロックへ逃げ込んだのだろうか。どうにかして調べられないか、私は考え込む。パソコンは壊れてしまった。私は早々に諦めたくなった。
なんとかしてデータを持ち出せると良いのだけれど……。
「所長、レポートは自室でまとめていたんですよね?」美雪が尋ねた。「データは実験室にしかないんだったら、どうやったんですか?」
「えっと、紙に書き写して部屋まで持ち込んでもらったかな。書き終えたらもちろん棄ててもらったけど」
非人道的な職場だ、と私は呟きたくなってしまった。反面、紙のセキュリティが優れていることは、すこしだけ同意してしまう。
その話を聞いて精密女が頷く。
「では、レポートや報告書であれば残っているわけですか。見せてもらえます?」
「良いとも……だが、個人のパソコンにしか残っていないんだ。サーバーに移すと危ないから。消さないように言ってあるから、まだあると思う」
「……………………私が、案内します」
倉田さんが、そう呟きながら、足に力を込めて立ち上がった。
「大丈夫ですか?」精密女が心配そうに訊く。
「ええ………………平気ですから……関係者の部屋に案内します……」
その目は、何かを決意したみたいに鋭かった。
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