ぜったい おもしろくない H_170330
「
――キリギリが目にしたそれは、世界の終わりだった。
果て、と言い換えてもいいだろう。線引かれたように大地はピタリと途切れ、そこに在ったであろうものを想像することすら難しい。自分のちっぽけな手では到底どうにもできない暴力的なまでの〝無〟が、そこには残されていた。
『これが、世界の真理……!』
始めこそ、おそれからきていたキリギリのふるえは、いつの間にか武者ぶるいへと変わっていた。数歩先にある境界の向こう側へ、自分も行ってみたいという想いばかりが胸に積もる。
『貴様! 我が同朋たちをどうした!』
とつじょ現れた原住民、アン。始まる戦い、舞い上がる砂けむり。なかなかつかない決着に、太陽が沈み始めた。
西日がひときわ強くなったそのとき、長い拳闘に終わりは訪れた。これを最後とくりだされた拳は交差し、互いの喉元を打つ寸でのところで止まる。
『ふっ……次は飛べぬようにしてやる』
『は! 言ってろよ』
どちらともなく上げた笑い声が響く中、今日も夜は始まった。
襲いかかったことを詫びたあと、アンは、狩りから帰ると集落一帯が消失していたのだと話した。居なくなった同朋たちを想い、途方に暮れるその肩を、キリギリが叩く。
『お前、運がいいな。大冒険家キリギリ様とは、この俺のこと! いっちょ一緒に探してやんよ!』
共に旅するうち、強まるキズナ、深まる友情。もろもろの壁も越え、いつしか二人はマブ・ダ・チの盃を交わす仲になっていた。
この平穏な日々がずっと続くことを願い始めたある日、アンの集落を襲った犯人、ジャン・ボエネミーが二人の前に立ちはだかる! 勇敢に立ち向かう二人だったが、あまりの巨大さ強大さに、膝を折るしかない。
見えない壁に阻まれ、逃げ場を断たれる。そのとき、壁の向こうから大きな声援が届いた!
『生きていたか、同朋たちよ!』
『へっ……こんなに期待されたんじゃ、おちおち休んじゃいられねぇな』
再び立ちあがる、キリギリとアン。そのとき、二人の体が不思議な光に包まれた! 顔を見合わせ、目で語り。言葉なく片ひざをついたキリギリの背に、アンが乗る。
『合体! くらえ――』
それぞれにクロスさせた腕を重ね、えがかれるひし形。二人は叫ぶ!
『キリギリアン・ビィィーームッ!』
やった! ヤったぞ、ジャン・ボエネミー! アンの同朋たちから歓声があがる。
安堵して二人が合体を解くと、空からは白いものが舞いおり始めた。
『ちっ、もう来やがったか』
持病のシャクが。と言わんばかりのつぶやきを残し、とつぜんキリギリが倒れる!
『キリギリ、君はまさか……!』
全てを察したアンは、帽子の中からイチゴの欠片を取り出し、キリギリを抱き起こした。
『ははっ! 食べるものが無いなら無いと、遠慮なく言いたまえよ。我らの備蓄力、あなどってもらっては困る』
初めて見るアンのほがらかな笑みに、戸惑うキリギリ。その頬がどことなく染まって見えるのは、沈み始めた太陽のせいか否か。
『いいのか?』
『ああ。君はもう、我が同朋の一員だからな』
『……すまない。世話になる』
重なり合う二人の影に、雪は積もっていった。
」
そうして、うっとり、としか言いようのない顔で、紙しばい屋のニーチャンは自分の肩を抱きしめた。心なしかクネクネして見えるのは、このさい、気のせいってことにしておこう。
そうして、ほう、と気持ち良さげにため息をついている一方。待ちぼうけを食らっているこちらは、アクビをかみころして涙目の子がチラホラ……。
(前置き、はやく終わらないかなぁ)
この場にいる、みんながそう願ってると思う。無いのも味気ないけど、こんなに長いのも困る。ボクらが待っているのは〝
(さぁ早く。早く、終わりにして!)
心の叫びが届いたのか、「――ってなわけで」と仕切りなおして、キキンッと、ニーチャンが
おしまいの合図に、ボクらはピンと背筋をのばして両手をかまえる。前にも何度か長いときがあったけど、どのハナシもサイッコーにおもしろかったから、きっと今回のだってとみんなの期待は強かった。……というより、〝待ったカイ〟があってほしかった。
「お待ちかね!」
高らかに宣言して、ニーチャンは紙しばいの木枠――舞台のトビラを上に左右にパタパタあけはなち、自信たっぷりにその題名を読みあげた。
「『キリギリ・スーの冒険! アン・トのヒモになる
===
ぜったいに おもしろくない
〔2017.03.30作〕
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Hは、タイトル兼参加記号です。素直に「ハナシ」の略としてもいいですが、「ヒト/雰囲気/ヘリクツ/ホントに」あたりで読むのもおもしろいかなと。
★ pixiv個人企画『第6回1週間小説コンテスト』参加作
お題:末文を「○○のはじまりだった。」もしくはそれに準ずる終わり方にすること
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