個人企画の参加作
夢の終わりを待ちわびて_221031
シャッと小気味良い音を立ててカーテンを引く。窓の向こうでゆるゆると白みを増していく空に目を細め、カラリと窓を開けて朝を招き入れた。
深く大きく、胸いっぱいにその匂いを吸い嗅いで、僕は振り返る。
すーすーと寝息を立てている寝台のキミにキスをして、「おはよう」と声をかけた。今日も応えは返らない。けれど、それを急かすことはしないと決めていた。
いつまでも待っているよ。そうささやいて
眠れる姫は、王子さまのキスで目覚める。白雪姫もそうだし、いばら姫もそう。カエルの王子様に至っては眠ってもいないし男女も逆だけれど、呪いを解く魔法が口付けそのものであることは間違いない。この現実が童話と違うのは、それでも彼女が眠り続けていることだった。
その身を
そうして
どの医者も目覚めさせることができず、皆そろって
光になりたいだなんて贅沢は言わない。でも、せめて空気にくらいなれていたらいいなと思う。親鳥が卵を温めるように優しく。それでいて、深く意識させることなく近くに存在できる、空気に。
「今日も散々だったよ。アイツったら、僕が手掛けた絵をまた自分の手柄にしちゃって――」
帰ると必ずしてしまう仕事の愚痴を、今夜も眠ったまま聞かされているキミ。これじゃあ起きたくなくなるだろうに、それでもつい悪癖として続けてしまうのは、いつかのように励ましの言葉が返るのを待っているからに他ならない。
『因果応報って言うでしょ? いずれその上司さんは
「〝大丈夫。知らない彼を
あの日の彼女の言葉をなぞる。その人がどんな人間かなんてものは、近くで過ごす者には嫌でも見えてくる。誰かを
満面の笑みで重ねられる言葉たちに、僕がどれだけ心を軽くしてもらってきたことか。絵のことにしたってそうだ。
美術科の僕と、音楽科のキミ。大学が繋いだ縁は卒業後も続いて、気づけば、耳に染み付いたバイオリンの音色を聴きながら絵を描くようになっていた。
そうやって僕の世界ばかりを満たして、キミは枯れゆくだけの閉ざされた世界にこもる。この手で満たせるものなら、望めばどんなことだってするのに。
ねぇ、またワガママを聞かせてよ。今ならどんな願いだって叶えてみせる。だって、僕も貴女が好きだから。選んでくれて、本当に嬉しかったから。
「そうそう。最後の一枚、もう少しで書きあがるんだ。十二星座が揃うのとキミが起きるのと、どっちが先かな?」
どっちでも構わないさ。僕は待つだけだ。
額に、指に口付けて、明日の為の挨拶をする。満たされた僕の世界に、キミと過ごす朝がやってくるように願いを込めて。
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夢の終わりを待ちわびて
〔2016.09.07 作/2022.10.31 改々〕
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* これも一つの「幸せのカタチ」なのでは。な、ひっそり百合。
* 夕凪もぐらさん主催企画「世界が満たされた時、最も美しいキスシーンを:セカキス」参加作
* 企画参加時にいただいた感想を元に2018年11月19日に改稿。カクヨム公開にあたり、気になっていた部分を解消できてまぁ満足です。
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