あの夏そこかしこ~夏色クリームソーダ_190919
レンズ越しに見る光景を、
南国の海のように澄んだ青は鮮やかで、湧き立つ
何も、こんな暑い日にあんな高く上がらなくてもいいだろうにと考えて、僕はため息をこぼした。
『あの空に溶けたい』
ふいによぎった言葉はひどく曖昧で、
しぼりを戻し、
強い日差し。靴越しにじわりと足を焼くコンクリート。夜まで耳に残るほどの
脳裏に浮かんだイメージに、喉が1つ上下する。
そうだ、久しぶりにあの喫茶店に行こう。思い立ちでもしないと、閉店の知らせを見かけて後悔する日まで避けてしまいかねない。失恋の痛手がなんだ。独りの頃からあの場所で積み上げてきた幸せな時間は、去っていった恋人とともに捨てていいわけがない。
無数の
ああ、
思い出の味にひとしきり酔ったあと、体が軽くなった気がして肩をグルリと回す。見えない羽でも生えたかなと考えて、笑いがこぼれた。
何を気負っていたのだろう? 構図を気にして、
カメラを構え直して、1枚。心のフレームにも、1枚。
変わりなく、撮りたいものを好きに残すだけでもいいじゃないか。だって、ほら。いい
きっと、僕は〝自由になりたかった〟のだ。雲や風や鳥、もしかすると空自体を
さあ、ここに味の記憶も重ねよう。この感覚を長く残しておくため、ゆっくり歩きだす。――無性に恋しくなったクリームソーダまで、徒歩10分。
===
『夏色クリームソーダ』
2019.09.19 作
=========
その罪深き飲み物にして食べ物は、僕を魅了して止まない。
「あの空に溶けたい」と願って、重たかった心は記憶に浄化されて、あの味に会いに行く。――そんな夏の1ページ。
★ Writone個人企画「空腹を満たそう #3」&「おいしい夏缶」参加作
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます