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雨にまつわる小話3つ(あまのじゃく/さめざめ/てんきゅう)_190624-25

【あまのじゃく】



わたしは、雨が好き。

天から地にかえっていくのをながめるのが、好き。


空も山もキレイになるし、ときどき虹だって見せてくれる。

くもりが続くと、そりゃあ体も気も重くなるけれど、奏でられるリズムを聞いているとすごく心が落ち着くの。

それに何より、母さまたちが喜んでくれるから好き。


この母さまの胸はわたしを抱き、あの母さまの手は雨風あめかぜを払う。

わたしは、そんな母さま みんなが大好きだった。



 だから、母さまたちを苦しめた雨は嫌い。

 いくつも手を折り、足元をすくって横倒しにした雨は。



わたしは天に飛んだ。

小さな体を小さな翼で、高く高く運び上げる。

力の限り、文句を言った。

そのうち世界はグニャリと回って、すぐにわたしも雨になった。


天は、何も言わない。

スズメなんて、気にとめたりしない。


バチャリと、大きな水たまりに落ちた。

今は心も体も痛いけど、ケガはない。

母さまたちを苦しめた雨が、わたしを助けたらしい。


好きだけど嫌い。嫌いだけど好き。

もう、それでいいや。


身をふるわせて雫を払い、もう一度飛び上がる。

母さまのところへ帰ろう。

そしてまた、雨を楽しもう。



===

あまのじゃく

〔2019.06.24 作〕

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【さめざめ】



 雨は、天使だと思う。穏やかと思えば荒々しくて、気まぐれで。でも、それでいて美しい存在だと。


 あるとき、伝えてみた。

「君は天使みたいだね」

 雨は一瞬動きを止めて、それから盛大に笑った。

「オレが天使なら、みんな天使だろうよ」


 この世全てのものをさげすむように、みずからをあざける。そんな雨を見ていると悲しくなるが、雨にはどうすることもできない。


 かれの名は『宿雨しゅくう』。梅雨つゆよりは短いけれど、同じようにうとまれ、長く降り続く者。


「ボクにとっては、天使なんだよ」

 ぼくは、穏やかな雨がうらやましい。


   *


 雨は、悪魔だと思う。大人しそうに見えて、加減を知らない赤子のように振るまうからだ。これでは、せっかくの美しさも台無しというもの。


 あるとき、からかってみた。

「お前はほんと悪魔だな」

 雨は一瞬動きを止めて、それから優しく微笑んだ。

「それがボク、だからね」


 付き合いが浅ければ、強がりだと疑いもしなかっただろうみ。心で泣く奴だと雨は知っているのに、りもせずまたやってしまったらしい。


 かれの名は『村雨むらさめ』。天の怒りかと驚き見まごう、短時間に集中して降る、激しき者。


「どう見えるかより、お前が何を思うかだろ?」

 おれは、ぼろぼろ泣く雨でいてほしい。



===

さめざめ

〔2019.06.24 作〕

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【てんきゅう】



 晴れの日は、わたしの出番だ。――といっても、実際に出る幕はなかなか無いけれど。

 基本的に独りぼっちだから、一人芝居で会話している気分に浸るか、眼下の小さき民を眺めて過ごす。正直言って、退屈なこと この上ない。


 その日も一見いっけんカラリと晴れた日で、前日の雨で少し様子の変わった地を見下ろしていた。

 ふと、1羽の小さなトリに目を奪われる。懸命に羽ばたき飛び上がってくる、そのトリは叫んでいた。おそらく〈天の者わたしたち〉に向かって。

 聞き取れた内容をつなげると、どうも〈村雨むらさめ〉に文句があるらしい。かれ下番かばんしたよと伝えたいけれど、トリの奏でる声をわたしは持ち合わせていないから……うーん、どうしたものか。


 悩んでいる間に、トリがふらつき始めた。「あっ」ととっさに手を伸ばしても、届かないし掴めない。ただ、指示通りにあまの雫が落ちるだけ。

 わたしは『天泣てんきゅう』。「天が泣く」と書くけれど、「天気雨てんきあめ」とか「狐の嫁入り」のほうが名前は知られている。

 小さき民が、雫とともに落ちていく。わたしは、おろおろするばかり。村雨の名残なごりが受け止めてくれたことに、そっと胸を撫でおろした。

 わたしはトリを見つめ、トリは天を見つめる。そのわずかな時間、交わらない視線の代わりににじが互いをつないだ。


 飛び立ったトリを見送り、また孤独の日常に戻る。

 いつか〈宿雨しゅくう〉が楽しそうに話していたのと、同じトリかもしれないな。だとしたら、わたしのこともでてくれるだろうか。なかなか出会えはしないけれど、そうであれば嬉しい。



===

てんきゅう

〔2019.06.25 作〕

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★ 個人企画「雨の日~雨に想いを寄せて~」参加作


▼ あまのじゃく

漢字表記は『あまじゃく』(正しくは「天邪鬼」)。

雨降らす天に想いを寄せつつ、嫌ってもいる小スズメ。そんなに高くは飛べない。


▼ さめざめ

「雨雨」と書いて「さめざめ」と造語読み。

それぞれ終盤で「雨」に当てたルビは男女反転してOK。一応、男同士のイメージで書いてます。『グッドオーメンズ』好き。


▼ てんきゅう

天泣(雨)、天弓(虹)、天穹(大空)。全部「てんきゅう」。

蒼穹そうきゅうもいいですよね……かっこいい。


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