生きよ、青春。_180909
初めて訪れた屋上は、寂しいものだった。誰もいないし何も無い。あるのはせいぜい、ぐるりと
「
こんな気持ちのいい特等席で夕焼けを
校内は禁煙だが外は外。無人をいいことに、柵にもたれてタバコに火をつけた。
――〝青春〟とは、何なのだろう?
春でもない暑い夏に、青くもない夕焼ける空を
そもそも、この〝青〟が
そういえば、明るい〝茶〟髪も「〝
「
「
すぐとなりで聞こえた声に、驚きはしなかった。なんとなく、現れる予感があったのだ。
「あーぁあ、いっけないんだ。コーナイは禁煙だよ、セーンセ?」
「外だろ」
「違うよ、
「勝手に規則を変えるな」
ここで初めて横をちろりと見やれば、柵に
「それで、今日は何考えてたの?」
花火のことなら、ここからも見えるから安心して楽しみなよ。などと、中身ばかりが大人になった子どもは笑う。こっちも慣れっこで、抵抗なんて選択肢はとっくに消えていた。
「青春って何だろうな、と」
「ずいぶんとまぁ、哲学的だねー」
からかう顔は崩さず、けれど、
「今度、お見合いすることになったんだ」
「へえ! いいハナシでもあったの?」
「教頭先生がそういうの好きで、気が付いたら組まれてた」
「何を話したらいいか分からないと言ったら、『夢を語ればいいんですよ、青春時代から続いているような』だなんて言われてね。でもそんなもの見たことも追いかけたこともなくて、じゃあせめて、自分にとって青春と呼べるものをと思ったら、どれがそうなのか分からなかった。――というわけさ」
ふうーん。との素っ気ない反応に、そりゃそうだよなぁと自分自身に溜め息を
「なぁ。センセーって、青春にどんなイメージ持ってんの?」
「んー、そうだなぁ……初体験かな」
「あらヤダ、センセったらエッチ」
「そういう意味のじゃあないよ、マセガキ。恋にしろ、部活動にしろ、胸が
変わってるだろ、と結ぶ。自分でもそう思うのだ。
「別に、いーんじゃない? 青臭くったって。むしろ、センセがそうじゃなきゃ、俺ら素直に青臭いことできねぇと思うし」
だから、いい。そう言い切ってくれた彼がやけに
――いいや。まだまだ、どっちもそうなんだろう。
「よしっ! じゃあ、若きを楽しもう!」
「なんだよ急に……ワカキ?」
「お見合いだって、初めてなんだから初体験にゃあ違いない。そう、そうだよ! なら楽しんでやろうじゃないの」
「いいねーぇ。ついでに結婚まで行けたら
「
「じゃあ俺ダメだな、とっくに死んでる」
なかばヤケクソの私につられ、若かりし日の友も笑いだす。満足したのか「じゃあな」と言い残してスーッと消えた。
どうせなら一緒に観てから去ればいいものをと思うが、そこは肉体なき自由の身。ここよりずっと
「早く成仏しろよ、相棒」
暗くなってしまう前に、懐中電灯を取りに戻ろう。夜色に染まりきった空に祭りの花が咲き乱れるのは、もうすぐだ。
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生きよ、青春。
〔2018.09.09作/2019.01.22改〕
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* 坊ちゃん文学賞(たぶん2017の第14回?)のショートショート部門、テーマ「青春」15枚以内――用に描き始めて全然間に合わなかったものを仕上げて、エブリスタ妄想コン83「青」に応募した作品。…坊ちゃん、第16回(2019)から長編部門無くなってたのね。
* 改稿版をWritoneに載せたら音声化されて嬉しかった思い出。そしてもう聞けない悲しみ。アクターさん支援もしたいのでカクヨムでも公開です。
(2022.09.24)
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