Happy new dear!_181111
『じゃあ一緒に行こう』
今年の年越しは実家でするから、久しぶりにニューイヤー・フェスに行こうか迷っている。――そんな話をフェイスウッドで書いたら、ただ一言。それだけのコメントが友人から届いた。
学生の内はちょくちょく帰っていたから、進学せずに就職したその友人とは仕事に支障を与えない
じゃあ当日、とだけ返信して、億劫だった残り数日の仕事をこなした。
ニューイヤー・フェスというのは、地元のお祭り実行委員会が仕切っている新年のカウントダウン行事だ。町外れの神社横にある小さな広場を使って、毎年つつましやかに運営されている。
その会場から市街地側に一〇〇メートルくらいの場所で配られる
「えッ! もう、やってないの!?」
あまり早いと寒いが、万が一にも楽しみにしている松明が在庫切れで手に出来ないなんて事態になることだけは避けたい。――そんなこんなで待ち合わせた大晦日の二十三時すぎ。その道中で聞かされた悲しいお知らせに俺の心は挫けかけた。
「毎年じゃないよ。配る年もたまにある」
じゃあ今年はハズレ年ってことかと納得はするものの、期待が相当大きかっただけに、夢破れたこのガッカリ感は底知れない。スキーウェアの下を履いていることもあって、顔文字の『orz』よろしくその場に崩れ落ち、この胸の悲愴感を惜しげなく演出してみる。
そんな俺の『呆然』加減を見かねたのか、友人が鞄から何かを取り出してカチリと音を立てた。
「はい、代用品。これで機嫌直して」
事前に俺のリアクションを予想して用意したらしいそれは、実際に明かりの灯るロウソクの玩具だった。くすんだ銀色の
大して洒落っ気もなく「おお、すげー」と単細胞な感想をしめして受け取ると、よっこいしょとジジ臭く立ち上がる俺をよそに友人は更に何かを取り出してカチリと鳴らした。
「カンテラもあるよ」
「ぅわーお、そっちも捨てがたい!」
『古き良き』なんてそれこそ古い事は言わないが、小さい頃の夢というか野望というか、そういうものが詰まったアイテムを手に神社への道を行く。街灯の減る町外れまでまだまだ距離はあるけれど、多少恥ずかしくとも楽しければそれでいいのだ。
しんと凍える街にふわりと舞い始めた雪の中、下らない話をしながら歩く分には電池稼働の明かりすら温かかった。カンテラに包丁を付ければ某ゲームの死神モンスターだとか、ロウソクにはやっぱり魔導書と真っ黒いローブだろうとか。その内に会場へ着き、照明アイテムの好きな方をくれると言うので迷わずロウソクを譲り受け、それぞれの鞄へと収納する。
会場には
パチンッ、パチリ。薪がたまに
遠くに聞こえていた神輿の掛け声も段々と近付き、もうすぐ今年が終わるのだという実感が強まる。自宅でテレビを眺めるだけのときにこの感覚がどうしても味わえなかったのは、きっと、誰かと過ごすこの時間が好きだったからだろう。しかもそれは、こうして何年も離れてなければ気付けなかったかもしれない。
「そういえばミヤのところ、子ども出来たって」
「おッ、やっとか! ずっと欲しがってたもんなー、あいつ子ども好きだし」
柄になくしんみりした思考に、少し天然の入った陽気な級友を上書きする。子煩悩全開でデレデレしている姿がすぐに浮かんで、「想像できる」と二人で笑い合った。
その内に
……ちなみに。奉納を済ませた後は、『牧草ロール版キャンプファイヤー』により消し炭になる。どんど焼きの由来は諸説あるらしいが、〝燃すことで天にお返しする〟という
ロール神輿が会場の真ん中に運ばれ、基礎からゴロリと降ろされる。それから灯油をかければ、あとは年明けと同時の着火を待つばかりだ。
「なぁ。来年の抱負って何かあんの?」
灯油のかけ過ぎを叱られている若いスタッフを尻目に、年末定番のそんな問いを隣りに投げかける。あんまり長く
「したいことは、ちゃんとする。かな」
馬鹿マジメな友は相変わらずすぐに真顔に戻るので、笑われた腹いせも兼ねて「やる前に諦めてばっかだもんな」と茶化してやる。少しだけ寂しそうな顔で返された「まあね」に、内心でため息をつく。
「じゃあ、今年やり残したことは?」
「……言えなかったことかな」
仕切り直した今度の問いには、少し間をあけただけで答えが返ってきた。これは色恋の話に違いないと察して「誰に・なんてよ?」などと更に聞いたところで、新年三〇秒前のアナウンスがかかる。こういう自分のタイミングの悪さこそ、来年あたりでどうにかしたい。そんなことを考えながら、申し訳程度に作られた小さなステージに向き直った。
――じゅうッ! きゅうッ!
MCのオジさんの声に合わせて来場者たちは叫んでいるが、そこに混じるにはテンションが足りず呟き声で参加する。そうして数字が五を切ったあたりで友人が
「へっ??」
なんのこっちゃと隣りを見れば、先ほど浴びた煙のせいか何処となく
――HAPPY NEW YEAR!
高らかに新年の来訪を喜び叫びさっそく挨拶が飛び交う中、華やかに弾け咲く空の花火とは全く別の意味で、俺の心中では何かが爆発していた。
ナ……ナゼ俺ワ、〝チュー〟サレテ、イル?
おめでたいのは年が明けたことなのか、初めてされた告白なのか、
『好きだ』
聞き違えようのないシンプルな言葉と、悔しいことに少し屈んでされたデコチュー。その対象者は確実に自分なのだと思い知らされる。
サラリと友人の手から
目をシロクロさせているだろう俺から、友人が惜しむように離れる。本人も幾分か照れ臭かったのか過去見たことがないくらい〝ふにゃり〟と笑ってのたまう。
「今年もよろしく」
「…………おう」
驚きはそのままに、なんとか返事を絞り出す。体は寒さでガタガタしているというのに、湯気でも上がってるんじゃないかってほど顔だけは酷く熱を持っていた。
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Happy new dear!
〔181228公開/181111改〕
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今年のやり残しも来年やりたいことも、友人は5秒でやってのけた。
* 歳末お約束の問答でおくる、年越し恋愛短編。創作男女なんですが、BLとしてもお楽しみいただける中性仕様です。
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